Side Story

□過去の拍手たち
7ページ/27ページ

『愛、していますか?』



「………。」

「………。」


今日はすごい訪問者ね…。



「………久しいな。」

「………そうね、お久しぶり…ね。」



どうされたのかしら?

この方は…下の階層を統治していらっしゃる筈。


…里帰りかしら?



「……あの。」

「息災か。」

「え?…えぇ。
―――貴方は?」

「余も変わりはない。」



あら、ふふ。

相変らずご自身の事、“余”って言うのね。


「どうぞ上がって?
何のお持て成しも出来ないけど。」


突然でびっくりしたけど、歓迎するわ。

折角だから、ネクタルと…アンブロシアも出そうかしら。



「失礼する。」


この方はあの方のお兄さん。

細かく言うと、お兄さんのお兄さんね。

姉さんを3人も持ってるせいか、凄く落ち着いてるわ。



「…余の姉が二人、邪魔をしたそうだな。」

「ええ。」

「騒がしくしたのであろう。
余から詫びる。」


そう言うと、彼は私に頭を下げたわ。



「ちょちょちょっ、やめて?
確かに騒がしかったけど、迷惑とか思っていないし…。
――――ちょっと戸惑ったけど…。」

「焚き付けに参ったのであろう。」

「………。
否定はしないけど。」



肩を竦める私に、彼は無に近い表情を向けてきたわ。


綺麗な漆黒の瞳。

私と同じ色だけど――彼には悲しみが滲んで見える。

どうしてかしら。



「そういう貴方は?
貴方まで、私にあの方と―――。」

「余は末弟の肩は持たぬ。」

「―――。」

「貴女にも貴女の心があろう。」

「―――!」



ウソ。

ここにきて、初の私の味方。




「貴女は我らの救済者。
そして戦いを勝利へ導いた我らの頭脳。
その働きに報いなければなるまい。」

「そんな大したことしていないわ。」

「貴女自身がそう思おうと、成された成果は偉業そのもの。
他の者では実現できまい。」


なんて優しい声。

下の階層を統べるに相応しい方だわ。

あの場所は全ての生命が最後に辿りつく、安息の地だから。




「余は無駄な争いを好まぬ。
貴女が参謀を買って出なければ―――今尚、相剋は続いていたやも知れぬ。」

「…でも、私だけの力じゃないわ。
幽閉されていた彼らが―――。」

「…彼らにはすまぬことをした。」

「―――。」



そうね。


両軍の戦力が拮抗していて、決着を見ないまま10年を費やした戦いに、あの方が勝利を収められたのは彼らの助けがあったから。

六姉弟の弟たちに、それぞれ強力な武器を与えた。

豪力を持ちうる者は、敵方に巨岩を射る事で加勢してくれたわ。


すると瞬く間に戦況は一転し、気が付いたら勝利を手にしていた。

それなのに…。


助けてくれたのに…戦いが終わった後、あの方は彼らを――。








「ところで、一つ。
知恵を賜りたい。」

「え?」


急に話が変わるのね。

…若干自己中? やっぱり姉弟だわ。


「これを。」

「何?これ。」


彼は長衣の裾から2つの光を取り出して、私に見せたわ。


金と銀の光。

綺麗…。



「夜を司りしかの方より預かった。
かの方が孤独でお生みになられた。」

「あぁ、夜の方の。」

「私の元で育てる。」

「―――そう。」

「如何にすれば、真っ直ぐ育つであろうか。」

「…。」



え?

知恵って…子育ての知恵?


って言っても―――さすがに私、子供は育てた事ないし。

教えてあげられる知恵なんて―――。



あ。

そう言えば…。


3番目のお姉さんを預かった時、両親が言っていたわ。

子供を育てるのに必要な事。

それは簡単だけど難しくて、大変な事。

でもとても素敵で、大切な事。




「―――“愛”よ。」

「“愛”?」

「そう、愛。
変にあれこれ考えないで、正面から愛を持って接するの。
楽しい時も、苦しい時も、悲しい時も、辛い時も。
怒れちゃって“こいつ!!”って、思ってしまう時でも。」

「………。」

「大事よって、大好きよ、愛してるわって、伝えるのよ。」

「―――。」

「ふふ、結構な大仕事よ?
子育てって。」

「余は愛を知らぬ。
余は―――親からの愛など…。」

「大丈夫。
子育てで悩む時点で、貴方の胸にはもう愛が芽生えているの。
不安と言う名前の愛が。」

「不安と言う名の、愛。」

「そうよ。
争いを好まない貴方。
助力してくれた彼らにすまないと思う貴方。
光の成長に不安する貴方。

全ての想いに愛が宿ってる。」

「全てに―――愛が。」



彼は目を細めて私を見たわ。

不思議ね。

彼の穏やかな目に見つめられるのは、嫌じゃないの。



「きっと…“真実の愛”にも遠くない未来に巡り合えるわ。」

「真実の愛。」

「ふふ、さっきからオウム返しね。
――そう、誰かを愛おしいと思う気持ち。
求めて、欲して…宝物のような愛。
その愛は最も深くて、苦しいけれど……。

幸せになれるの。」

「幸せ。」

「ええ。」



胸の中が温かくなって、自然と笑顔が湧き上がってくる。

彼は私へ視線を向けて―――ふっと、微笑を称えると、静かに唇を動かしたわ。




「――姉たちの意志に賛同する。」

「え?」

「末弟の傍は貴女が良い。」

「………焚き付けに来たわけじゃないんでしょう?」

「左様。
尊重されるべきは貴女の想いであるが―――。

余の意見を述べたまで。」

「………。」

「案じずとも良い。
もう言わぬ。」

「もうっ。」



困った姉弟ね。



でも―――。


今日は心がざわめかない。




………彼の、安らかな空気のお陰なんでしょうね。







〜愛、してますか? 終〜

過去の拍手目次へ戻る



聖闘士星矢TOPへ戻る
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ