Side Story

□過去の拍手たち
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『最後の関門は突破された』





「こんにちは。中に入れてもらえる?」


今日の客様は3姉妹の二番目のお姉様。

この間の妹さんといい…本当、別嬪揃いの姉妹ね。


あ、姉妹だけじゃないわ。

弟君たちも結構な美男子よ。



「何を“美人キターーッ!!”って顔してるのよ。」

「え?だって実際美人だし…。」

「貴女ね、前から言おうと思っていたけど、自分で鏡見た事ある?」

「?毎朝見てるわよ?」



二番目のお姉さま―――彼女は頭を抱えたわ。

綺麗な眉を寄せて、頭を左右に振ったの。



「毎朝見てて、何で気付かないのかしら。
貴女、仮にも私たち眷属の中で、一番の知恵と頭脳の持ち主でしょう?」

「う〜ん…周りがそう言うだけだし。
他の方と比べた訳じゃないから。」

「3000人の美人姉妹の中でも、一、二を争う美貌って謳われているのに?」

「下の妹たちの顔なんて覚えていないもの。」

「……知らぬは本人ばかり、ってやつね。」

「え?」

「いいわ、何でもない。
そんな事を話しに来たわけじゃないの。
あ、ネクタルある?妹がこの間、ここで頂いたって言ってたんだけど。」

「ええ。ちょっと待ってて。」



私は彼女の希望通り、この間いらした彼女の妹さんと、同じネクタルをテーブルに置いたわ。


「新作ですってね。ありがとう。」


彼女はそれを美味しそうに一口飲む。

さすがに妹さんみたいに、グラスをテーブルに叩きつけたりしない。

大人だわ…。



「で、私が来た理由だけど。」

「聞かないでおくわ。」

「………まだ何も言ってないけど。」

「でも、聞きたくないの。
特に…あの方を毛嫌いしている貴女様の口からは。」

「……悪口かもしれないから?」

「いいえ、貴女が“否定してくれる最後の砦”かもしれないから。」

「………。」

「………。」



私たちの間に、暫しの沈黙が過ぎったわ。

痺れを切らしたのは彼女。徐に口を開いた。



「分ったわ…じゃ、今から私が言うことは、独り言だと思っていて。」

「!」

「正直言うとね、気の毒に思っているの。
あのスケコマシに好かれちゃうなんて…。
絶対遊びだって思っていたわ。」

「………。」

「でもね―――。
末弟がね…“黒髪の色白美女には何が似合うか”って、血相変えてプレゼントを探しているの。
姉にも、妹にも聞きまわって。仲の悪い私にも聞いてきたわ。」

「……!」

「まだ、プレゼントは決まっていないみたいだけど…。
“すっごく賢いヒトで、宝石なんかじゃ喜ばない女性なんだ”って。」

「………。」

「“喜ぶ顔が見たい”んですって。」

「………。」

「“彼女が友人に、金の羽を貰った”。」

「!」

「その女性は、それはそれは嬉しそうに笑ったらしいわ。」

「………。」



アイオロスのバカ。



「それを上回る笑顔が見たいそうなの。」

「………。」

「“そんなに好き?”って聞いたら…。」

「……。」

ボンッ!!って、破裂しそうなくらい真っ赤になっていたわ。」

「―――っ。」

「――――ねぇ?
どなたかしらね? その女性って。」

「―――知らないわっ!」

「………。」

「……。」



「そう、知らないなら仕方ないんだけど…。

これでお暇するわ。
ご馳走様。ネクタル、美味しかったわ。」

「…どういたしまして。」



彼女は踵を返した。

その反動で、彼女からは大地の実りの香りが匂い立つ。




「…最後におせっかいで何だけど。」

「え?」



彼女は私に背を向けたまま話し出した。


「姉である私から見ても、末弟は男として不十分よ。
王としては―――どうだか知らないけど。

女一人、口説き落とせないで、ナンボのもんよって、思うわ。」


「………何が言いたいの?」


彼女がチラリと、肩越しに私を見る。



「夫も持たない女が言えた義理じゃないけど、私はそこそこ、恋はしているつもり。」

「…。」

「貴女も…“末弟”って単語、聞くだけでそんなに可愛くなるなら、素直になったら?」

「!
可愛っ…て誰がっ。」

「お顔、ふふふ。
リンゴみたいよ?」

「!」



彼女は視線を前方に戻すと、ヒラヒラと手を振って別れを告げた。


「最後の砦になれなくて、ごめんさないね?」
と、言葉を残して。


背中が遠ざかって行く。



もぅ…。

なんて男らしいお姉様なの。



………。


……。


…。


素直、ね。


分っているわ。

分っているの。

分っているけど。


ダメなの。


素直になれない位、頑なに拒んでしまって…。

想われれば、思われるほどに。

拒絶して、背を向けて、逃げて。


本当はあの腕を欲しているのに。

あの胸を、夢にまで見るのに。


手に入れたら最後…。

失うのが、怖くて。



どうしたらいいの?

誰か教えて。

誰か…誰か…。




愛を説ける誰か、私を救って…。







〜最後の関門は突破された 終〜

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