Side Story

□過去の拍手たち
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『彼女の事情』




「ちょっと!邪魔するわよ!」



超絶絶世の美女が、けたたましく私の部屋に飛び込んできたわ。

あのお方のお姉さまよ。

相変らず…溜息が出るほどの美しいのね。



「あら、いらっしゃい。今お茶入れるわ―――。」

「“いらっしゃい”じゃないわよ! そして、お茶は激しくどうでもいいわ!!」



彼女は眉間に皺を寄せて、火山の如く怒りを噴火させて、テーブルに荒々しく両手を着いた。

まぁ、手を痛めていないかしら?



「どうしたの?いつも気高くて品性高い貴女らしくもない…。」



私は叩かれたテーブルを、そそくさと撫でで見たわ。

うん、凹んでない。まだ使えるわね。



「どうしたもこうしたもないわ!聞いたわよ!どういうつもり?!」

「どうって、何を?
あ、ねぇ?今年出来たネクタルを頂いたの。飲んでみない?」

「いいわね!頂くわ。
……じゃなくって!!」

「え?ネクタルいらないの?」

「ネクタルはいるわ、注ぎなさい!コップに並々と!」



今度はグラスを乱暴にテーブルに叩き置かれた。

グラス、ヒビ入っていないかしら…。



「はぐらかしたりしたら、如何に貴女と言えど、容赦しないわ。」

「だから…何なの?」



私はネクタルをコポコポと彼女のグラスに注ぎながら聞いたの。

おっと、零れちゃう。…並々って難しいのね。




「あのお方とデキてるって本当?!」


ゴボ…ッ!


ネクタルを彼女のグラスから溢れさせてしまったわ。



「あっ…。」

「何やってんのよ、鈍臭いわね。頭だけ無駄にいいくせに、本当に愚図なんだから。」



彼女はブツブツ言いながらも、私が溢れさせてしまったネクタルを、綺麗に拭き取ってくれたわ。

優しいわね。ぶっきらぼうだけど、本当はいい子。



「なにニヤニヤしてんのよ。気持ち悪いっ。」

「ふふふ、可愛いな〜って思って。」



私がそう言うと、彼女は秀麗な眉を引きつらせて言い放ったわ。



「“可愛い”ですって?!訂正して!
私は美しいのよ!“綺麗”とか、“艶やか”なら大歓迎だけど、“可愛い”は頂けないわ!!」

「どれも変わらないような…。」

「変わるのよ!!」



ピシャッと言い締められた。

美しいのも相変わらずだけど…怖いのも相変わらずね。



「で?」

「え?」

「“え?”じゃないわ。質問に答えなさい。」

「質問?何だったけ?」

「……松明で焼かれたいの?」

「焼かれたくない…。」

「デキてるのか、デキてないのか聞いてるのよ!!」



うぅ…すごい剣幕。

そんなに怒ると美人が台無しよ?

……怒っていても綺麗だけど。



「デキてないわよ…。そんな下品な言い方、誰に習ったの?」

「一番上の姉よ。」

「………。」



一番上って、あの温和な彼女が?

私が怪訝に顔を歪めていると、彼女は一番上のお姉さんの口真似をしたわ。



「“あの海さんの所のお嬢さん、末っ子の弟君と付き合ってるんですってよぉ。私、あの二人がデキてるなんて、全然知らなかったわぁ。うぅ〜ん、若いって素敵ですねぇ”…ですって。」

「さすがに姉妹なのね、物真似上手!」

「まあね、因みに二番目の姉の真似も出来るわよ?」

「わぁ、やって!」

「“姉さん、何言ってるの。あんな頭のいい子がボンクラ末弟と付き合う筈がないじゃない。あ〜…あの子の事、大好きなんだけど…可哀想よね。ちょっと末弟を助けたら、追い掛け回されて。私だったらマジ勘弁!あ゛〜っ、想像しただけで吐き気がするっ。”…こんな感じかしら。」

「お見事!!」



パチパチ。


私は拍手を鳴らして大絶賛したわ。

この三人、全然性格は似てないのに、やっぱり姉妹なのね。



「で?」

「え?」

「……やっぱり松明をお望みのようね。」

「質問には答えたじゃない。」

「…何が不満なの?二番目の姉の様に、弟を毛嫌いしてるわけじゃなさそうだし。
弟は美男子よ?王様よ?この山のありとあらゆる女たちが、喉から手が出来る位欲している男よ?」

「……。」

「かく云う…私だって。」

「え?そうなの?
だったら遠慮なしに―――。」

「本気で言ってんの?
弟は貴女が良い!って言ってるのよ!貴女の事が好きなの!」

「……。」

「私も、貴女なら…納得するわ。」

「……えっ。」

「悔しいけど、貴女は私の、私たちの恩人だし。
私の養父母の娘でもあるわ…っ!幼い時、遊んでくれた事だって覚えてるっ!!」

「……そんな。」

「だからはっきりしなさいよ!!
好きなら好き!嫌いなら嫌いって!」

「……。」

「私は……貴女以外、認めないわ!
絶対に認めない!!」

「あ、待って…!」


バンッッッ!!


彼女は勢いよく立ち上がると、入ってきた時と同じく、走って部屋を出て行った。






……知らなかったわ。

彼女、貴方の事を…。




はぁ…。

とうとう、自分たちだけの問題じゃなくなってきたのね。

あの三姉妹にも、話が届いてしまったんだわ…。



どうしよう…。

どうしたらいいの…。





誰か…助けて…。








〜彼女の事情 終〜

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