Side Story

□過去の拍手たち
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『彼の奇跡』




浮島。


私の古い友人は、そこに住んでいるわ。

人の身でありながら、貴方に好かれて、風を統治する力を授かった、優しくも勇敢で、頼りになる、大好きな友人よ。


…貴方は始め、私と友人が良い仲なのでは?なんて…勘ぐっていたわね。

友人に会いに行こうとするたびに邪魔をして。

本当にお友達なのよって、何度説明した事かしら。

男女間の友情なんて、ありえないって、あなたは否定したけど。


…そうね、私たちは男女だったら、兄妹でも結婚してしまうものね。


そう考えたら、男女の友情も証明できなくなるけど。


あら?
でも、友人の6人の息子と6人の娘も、それぞれ結婚したのだったかしら?

……人間なのにね。色々突っ込んでしまうわ。







「ようこそ、浮島アイオリアへ。」

「お招きありがとう、アイオロス。」

久々の再会に胸が高鳴るわ。

友人は、アイオロスは相変らず優しく笑うもの。心が癒されて、落ち着くの。



「これをどうぞ。」

「まあ、きれい…。金色の鳥の羽。…何の鳥かしら?」



アイオロスは私にうっとりする位美しい羽を1枚、プレゼントしてくれたわ。


「さあ、どうだろう?今朝目覚めたら、枕元にあったんだ。黄金…ってところが素敵だろう?」

「そうなの?ふふ、風の王の元にヒラヒラ飛んできてしまったのね。」


黄金の羽を指でサラサラなぞってみると、凛とした弾力のある強い感触がしたわ。

うん、アイオロスの羽って感じね。





「聞いたよ。あのお方に言い寄られているそうだね。」

「あなたまでそんな事言わないで。…言い寄られるだなんて…。」

「あはは、否定かい?これじゃお方様も手古摺るわけだ。」


アイオロスは愉快に笑っているわ。

ぅんもう…っ、笑い事じゃないのよ。


「手古摺るだなんて…。あの方は気まぐれで声をかけてきているだけよ。
とってもおモテになるし、私じゃなくてもお相手はたくさんいるわ。」

「そりゃ、お方様は皆様の王であらせられるから。望まなくとも、女性が付いてくるだろうね。」


私は黄金の羽を指で挟んでクルクル回しながら、彼の言葉を聞いたわ。



やっぱり、ほら…。

モテるじゃない。

他に女はいないって、言ってたくせに。

いいけど、別に関係ないけど、あなたがどなたと一緒にいようと、過ごそうと。



「…先日、お方様も私の元に遊びに見えてね。」

「あのお方が? 何だか本当に…すっかり仲良しね。」

「当初はかなり嫌われていたけどね、貴女との関係を疑われて。」


アイオロスが零れる様に微笑む。

お日様の様に眩しいわ。風の様に爽やかだわ。



「お方様は悩んでおいでだよ。」

「悩み?」

「うん。」


何を悩んでいるのかしら?

今度は薬で解決できない事なのかしら?


「好きで好きで、どうしようもなく愛している女性がいるのに、何をどうしても振り向いて貰えないってね。」

「!」

「王の寵愛を受けながら、それをヒラリとかわすだなんて、どんな女性だろうね?」


アイオロスは意地悪な瞳で私を見るわ。

何よ…、私じゃない別の女性かもしれないでしょう?


「そ、そうね罪な方もいらっしゃるのね。」


黄金の羽で目線を隠しながら、私は言ったわ。

目を合わせたら、動揺がばれてしまいそうだったから。


「ほぼ毎日、大きな花束を贈っているそうだよ。」

「!!」


アイオロスは不敵な笑顔で私を射抜くわ。

もう、知ってるくせに。確信犯ね。



「…どうするんだい?」

「どうって…。」

「いずれ誰かがお方様の隣に付かなければならない。」

「……。」

「私は、その場所には貴女が相応しいと思っている。」


私はアイオロスを見たわ。

アイオロスも強い目で私を見つめ返してる。



どうしてよ。どうして貴方まで。

待ってほしいの、まだ答えが出てないの。

まだ、あの方の胸に飛び込んでいけないの。

まだまだ、自分の気持ちに蓋をしておきたいの。



「怖いのかな? でも大丈夫――…。」


アイオロスが私の頭を撫でてくれる。

安心するわ。ホッとするわ。やっぱり、アイオロスの事大好きだわ。


「私が貴女の、力になるから。」

そしていつも、私の欲しい言葉をくれるのね。








〜彼の奇跡 終り〜

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