Side Story

□過去の拍手たち
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「ごめんなさい、怒っているかしら?」

「………。」

「貴女の気持ちも顧みず、申し訳なかったわ。」

「………。」

「やっぱりこの結婚はダメ?
改めて考えてみたら嫌になってしまった?」


だから離婚とか言ったのかしら…。

幸せそうだったのに……どうしましょう。



「ねぇ、何か言って?ア―――」

「旦那様の事は好きよ。」

「!」

「愛しているわ。」


妹は、ポッと頬を赤らめてそう呟いた。


まぁ、まぁ、まぁ!

なんて可愛い…!


“愛している”だなんて、この子の口から聞ける日がくるだなんて!



「愛しているわ。本当に心から。
確かに、お姉様が認めた方なら結婚してもいいと思ったのは事実だけれど…。」


えぇ、えぇ。

事実だけれど?


「旦那様を愛おしいと思う気持ちは、旦那様を知っていく内に…いつの間にか私の中で育っていたわ。
嫌だなんて…全く思っていないもの。」


やだ、どうしましょう。

目頭が熱くなる。


そうよ、愛は成長する生き物なの。

いつの間にか胸に巣食っていて、抗えないものよ。


それに目覚めて―――気付いた貴女は、これまでよりもっと素敵ね。

これから先、旦那様と幸せな時を過ごして―――子供だって生まれるわ。


うんとうんと、もっともっと素敵になるのよ。



「だから―――お姉様?」

「なに?」

「ありがとう。」

「!」



駄目だわ。

涙腺が決壊する。


体中がすごく温かい思いに満たされて、どんどんどんどん瞳の奥から溢れてくる。



幸せなのね。

幸せなのね。

良かったわ。

ホッとしたわ。



「お姉様ったら、泣かないで。」

「だって。」


妹が私の頬に流れる涙をそっと拭ってくれる。

その仕草すら愛を感じて、私の満ちあふれた思いは止まらなくなる。



「ふふ、これじゃどっちが姉なんだか。」

「あは、そうね。
私が妹でも、懐いてくれる?」

「えぇ?お姉様が私に懐いてよ。」

「―――あ、そっか。」





妹と私の瞳が交差する。

妹は私に顔を寄せると、コンっとお凸を重ねた。



「お姉様。―――私、今幸せなの。」



柔和に言葉を奏でるように、彼女は言成す。


「本当に本当に幸せよ。」


ええ。

触れるお凸からジンジンと伝わって来るわ。


「お姉様の涙も…嬉しいわ。」


ふふ、ありがとう。


「………お姉様も幸せになって?」


ええ。

私も幸―――――




……………え?




「私もお姉様を祝福して、涙を流したいわ。」




―――――――――!




妹の言葉にはっとして、私は顔を離した。

目を見開いて妹を見る。

彼女は潤んだ瞳で私を望んでいた。


私と同じ、漆黒の瞳。

その瞳が私の目前で、私を想って揺らいでいる。



「お姉様が幸せになれるのなら、お姉様が選んだ方なら」


妹の真っ白な頬に、一筋の光が流れた。


「心から祝福してみせるから。」


―――“みせるから”




「お姉様。」


妹が私の手を取る。

両手でしっかりと、ギュッと握り締める。



「大好きよ。」



青く澄んだ妹の笑顔は溜息が出る程に流麗で。

私は何故か、もう一度涙が込み上げてくるのを感じた。






〜delphinus 終〜

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