Side Story
□過去の拍手たち
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妹は肩肘をついて、少し唇を尖らせて私を見上げたわ。
私はただニッコリと笑う。
「そう。」
「話を聞いて!とか言われちゃって。」
「あら。」
「当然話なんて聞く気になれなくて、初めは耳を塞いでいたわ。でも…。」
「でも?」
「そのイルカがとても可愛らしくて、私ったらついつい警戒心を解いてしまって…。
うっかりお話を聞いてしまったのよね…。」
「まぁ、んふ。」
良かった。
旦那さんにイルカを進言したのは間違いではなかったわね。
絶対妹はイルカが好きそうな気がしていたもの。姉妹だから、よく分かるわ。
「旦那様がどれだけ素敵かって事を熱弁してくれちゃって。」
「うんうん。」
「でもそれだけじゃ、私の心は結婚するまでには揺れなくて。」
「え?そうなの?」
そりゃ…そうよね。
いくらイルカを気に入ったからといって、愛も深まっていないのに、さぁ結婚!にはならないわよね…。
あら?
じゃ、どうして急に結婚になったのかしら?
「おかしいでしょう?」
「え?おかしいって…何が?」
妹は怪訝に眉を寄せた。
ずいっと、私に顔を寄せる。
「だって、癇癪で震災を起こしてしまうような旦那様が、イルカとかお洒落で気の利いた使いを用意できるとは思えないんですもの。」
「……。」
ギクリ。
「そういう繊細さは欠けているような気がするのよね。」
欠けてるって…。
仮にも貴女…旦那様に…。。
「私の好みを知ってる方なんて、ごくごく限られていと思うの。例えば両親とか。」
………。
そ、そうね。
両親なら…貴女の好みを知っているでしょうね。
でも、敢えて“両親”と口にするって事は―――。
両親が犯人だとは思っていないのでしょう?
嫌ね。
嫌な雰囲気だわ。
だ、大丈夫よね?
「絶対どなたかが裏にいる気がしたのよね。」
ギクリギクリ。
「イルカの熱弁を聞いてね、取り敢えず旦那様に会うだけ会ってみようかなって思えたの。
だから―――
会ったその日に聞いてみたわ。」
ギクリギクリギクリ。
「イルカは誰の入れ知恵ですか?って。」
うわぁ…大丈夫じゃない!
「そ、それで?
旦那さんは何て答えられたの?」
「“入れ知恵なんてして貰ってはいない”って。」
ナイスだわ、旦那さん!
「“間違っても貴女の姉上に知恵をお借りしたのではない!”って。」
「………。」
アンナイスだわ…。旦那さん。
妹はふいと私から面を離すと、頬をぷぅっと丸めて恨めしそうに私を見つめた。
あぁ…!拗ねた貴女も可愛いわね。
…なんて、言っている場合ではないのだけれど。
私は妹の顔色を伺うように、彼女の顔を覗き込んだ。
バチッと目が合うと、妹はついと視線を逸らしてしまう。