Side Story

□過去の拍手たち
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『delphinus』






里帰りのついでってわけではないのだけれど。

折角だからと思って、妹を訪ねたの。


妹夫婦の新居を訪ねるのはこれで2度目ね。

始めては勿論、結婚式の時。

あの時は妹も忙しくて、ゆっくり話なんて出来なかったし。


私も―――あの日は逃げるようにして帰ってしまったから。







神殿の奥に設えられた新妻のための空間。

無数のイルカの像が飾られている。


「凄い数ね…。」

「可愛いでしょう?100体あるのよ。」


乙女の頃と変わらぬ笑顔で、妹が私の隣に座っている。

妻となっても妹は妹のままね。

当たり前の事なのに、そんな当たり前の事がすごく嬉しいの。


キュッって腕なんて組んできて、「お姉様、お姉様」って。

可愛くて仕方がないわ。



「100体?凄いわね。」

「結婚を決めたきっかけだもの。
本当はね、神殿の中央のあの馬鹿でかい像も、イルカにしようって話が出てたのだけれど…。」


中央の大きな像って…神殿の中心に鎮座するあの像よね?

誇らしげに三つ又の槍を構えている、この階層の王様の像。

今では妹の旦那様だったりするわ。



「えぇ?!
それは駄目でしょう?いけないわ、そんな我儘。」

「違うの!私がそうしようって言ったのではないの!
旦那様がそう仰ったのよ!私への愛の象徴だって!!」

「………。」


あらそう。


ご馳走様。



「お姉様、何を思っていらっしゃるのか顔に出ているわよ。」

「……。」


まぁ、夫婦仲が良いのはいい事だし。



「でも、妻としては夫の顔を立てたいでしょう?
だから反対したの。“旦那様の像じゃなきゃ離婚します!”って言って。
そしたら“だったら代わりにこの像を”って、言って…ものの一晩の内にこれだけの像を飾りつけちゃったわけ。」


離婚って…。新婚なのに。

言われた旦那様が可哀想だわ…。


それにしても旦那さん、ご自分の誇示よりも妹を、だなんて。

私への誓いを守ってくれているのね。



「ふふ、愛されているのよ。」

「………ちょっと前までは本気で嫌だったけど。」

「うふふ。」



妹はね、小さな頃はそれはそれはお転婆で、ちょっと波風が立つと唸ったり、機嫌が良い時なんて周囲から“波間”とか言われてからかわれたり。

お嫁の貰い手があるかしら…とか、母がよく心配していたものだけれど。


成長した彼女は本当に美しくて落ち着いていて。

だからよね。妹を追いかけ回す殿方が後を絶たなくなってしまったの。

目の色変えた皆様から、妹は逃げ惑って、「私はまだ乙女でいたいのよ!」とか叫んだりして。酷使した足腰を痛めていた彼女が思い出されるわ。


…あの頃の妹は、旦那さんの事を嫌がっていたのよね。



「でも、ある日1匹のイルカに見つかっちゃってね。」




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