Side Story

□過去の拍手たち
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父を振り返ると、案の定、体の内側から煮え滾るようなそれ(・・)を沸々とさせていた。

…顔は笑っているけど。


ちょっと、お父様の本気のそれは危険よ。

多分、世界が吹っ飛ぶわ。



「人前で私の大切な娘とあんなことをするとは。
親の顔が見て見たいものです。」

「親って、兄さんと姉さんだけど。」


お母様、ナイスツッコミ。


「交際を望むのであれば、まず私に一言挨拶をするべきです。」

「だってあなた、そういう話題“おとといきやがれ!”じゃない。」

「それを承知で向かってくるのが愛というものです。」


お父様の愛は底知らず。

さすが、司っているだけに、海より深い愛(・・・・・・)って言うのは伊達ではない。



「私たちの時代は良かったわね、兄弟婚だから反対もなくて。
あなた、私との結婚で苦労なんてしていないでしょう?」

「………。」


あ、父が黙り込んだ。


「私を嫁にくれ!って、誰かに頼み込んだ?」

「………。」

「そのあなたがそう言うの?」

「………。」


父が押されている。

母強し。



「私はね、娘たちには幸せになってほしいの。
素敵な伴侶を見つけて、子供を産んで、温かい家庭を築いてほしいの。
私たちみたいに。」

「―――!」

「あなたのそれは、娘を取られたくない一心の単なる我儘でしょう?
よくご覧なさい、あの方を。とっても誠実で一途で、私の目方ではこの子にぞっこんよ?」


ぞっ……!

お母様!!


母の言葉に、私は顔を覆いたくなる。

そんなことないのよ、お母様。

あの方には他に女性がいるのよ。


「……大丈夫よ。あの手のタイプは、本命が出来たら一直線だから。」

「えっ。」

「ふ。」


私の心の不安を読み取ったみたいに、母が言う。

女の先達として微笑んだ。


お母様…格好良いわ。




「私は愛する娘を二人もあの兄弟に差し出さねばならないのですか。」


母に攻められ、カクリと肩を落とした父が呟いた。


「まぁ、あなた。光栄じゃない。」

「お前にとってはそうでしょう。しかし、私は……。
私にとって、娘はいつまででも可愛い娘であってほしいのです。」


父の台詞に、母は苦笑する。

父親としての父の気持ちが、母はきっと嬉しいのだわ。

「もぅ。」とにこやかに嘆息を付いて、父へと言葉を紡いだ。



「でも、大切なのはこの子の気持ち。
あの子の時だって、そう思ったから最後には結婚を許したじゃない。」

「………。」



「それで―――ねぇ?」


母が私へと面を向ける。


「本当のところ、どうなの?」


さっきのにやけた質問とは違う、本気の問いをぶつけられた。


どう?って、どう?って―――。


私は回答に詰まった。

縋るような気持ちで父へ視線を流すと、父も私を真剣な眼差しで見つめている。


あぁ、茶化せない。

真剣には真剣を返さないと駄目だもの。




「あ、あのね。お父様、お母様。
私は――――ね。」


父と母の目を交互に見ながら、私は懸命に言葉を選んで開口した。


「結婚とかは、まだおいておいてね。

わたし、私…は。」


脳裏にあの方のお顔がフラッシュバックする。

それだけで、自覚できるくらい頬が熱くなる。


この熱がはっきり愛と呼べるのかはまだ分らないけれど。

結婚式のあの時、背後から抱き締められたあの瞬間。


嫌じゃない自分がいたの。



「私――――。」


私。














「付き合ってみようと思うの。

―――あの、お方…と。」

















私がそう宣言したと同時刻。

私は自分の発言にてんやわんやだったから気が付かなかったけれど、後からお嫁に行った妹が教えてくれたわ。



世界中の波と言う波が大揺れしたって。




ホンット…父親の愛って。

涙が出てしまうわ。





大洋の愛 終〜

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