Side Story

□過去の拍手たち
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「面白いのよ、この人ったら。
彼が挨拶にいらした時、“おとといきやがれ!!”なんて言って、そこら中の波を荒立たせて。」

「まぁ。」


んふ、想像に容易いわ。


「でも、貴女の推薦があるってあの子が言ったら、しゅんと静まっちゃって。」


あらあら。


「仕方がないでしょう?
愛しい我が子の一人が推す人物なのです。話くらい聞いて差し上げねば…。」


母の言葉に、父は反論を口にした。

それを右から左へ聞き流し、母は私へと話を続ける。


「で、結局は彼の説得じゃなくて、あの子の結婚しますっ!ていう意志に押されて結婚を許しちゃったのよ。」

「そう。」

「こら、それは秘密にする約束でしょう。」

「いいじゃない、他でも無いこの子なんだし。」

「…お父様、否定しないのね。」

「………父親は娘に嫌われるのが一番辛いものですから。」


3000人も娘がいて?

そりゃ、一人くらい嫌われてもいいって思っていたら、大戦の中で私は捨置かれたでしょうけど。

結婚を反対したくらいで、あの子は父親を嫌わないと思うわよ?


愛が深いわね、お父様。





「ねぇ〜?
結婚って言ったら……。」


突然、母がニタっと妖しく口角を持ち上げて、私の顔を覘き込むように頭を低くした。

ふふんと鼻で笑い、からかうようにして私に問い掛ける。



「結婚式での“アレ”何だったの?」

「!!」

「!!」ガタッッ!ゴポゴポ…


母の質問に、私は全身の毛が逆立った。


そうだったわ、見られていたんだったわ!

ハッとなって父を見やると、ネクタルの瓶を倒したらしく、慌ただしく零れたネクタルを拭いていた。


……結婚式での父の形相。

体内から湧き出るそれ(・・)は、まるで鬼のようだった。



どう説明しようかしら?

ちょっと襲われていただけ?

そんな事言ったら地獄絵図よ。



あれは遊びなのよ?

……駄目よ、ダメダメ。同じ末路へ直行だわ。



私は困っているのだけれど、彼が―――?

あぁ、絶対に駄目だわ。

娘は嫌がっている!だなんて怒り狂って、やっぱり地獄絵巻の始まりよ。



だったらどう言うの?

お付き合いしている方ですとでも紹介するの?

……まだ付き合ってもいないのに?




「本気くさい目をしていたわね、あの方。」


母は嬉しそうに笑っている。


「お母さんは誇らしいわ。
あの6姉弟の男性陣の内、お二方もうちの子を見初めてくれるだなんて。」

「ちょっと…、お母様!」


見初めるだなんて…!


「しかも、貴女の方はとんでもないお相手ね。まさか今代の私たちの王様だなんて。
でも、引け目を感じつ事なんてないわ。貴女は格式的には釣り合っているのよ。
だって、私たちの子供なんですもの。」


そうなのよね。

私の両親は前王の兄と妹なのよね。

私はその娘であって、実際のところ、私とあの方は従妹に当たる。


身分が不釣り合いだったら、もっと簡単に答えが出せれたのに。

王様だから、妻にはそれ相応に相応しい女性がつくのが相応しい。

そこに愛情があるのならば、尚の事。


分ってはいるのよ。

分っては…。




「………私は許しませんよ。

「え?」


ポツリと、低く男性の声が聞こえた。

言わずもがな、父よ。




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