Side Story
□過去の拍手たち
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『大洋の愛』
私の実家は遠い所にあるの。
世界の最果て…とまではいかないけど、世界をグルリと囲うようにしてあるのよ。
え?
世界を囲うだなんて、そんな家は在り得ない?
…そうね、通常ならね。
それは私の両親―――特に父親に関係してくるんだけど――。
どのみち私の実家は大所帯で、それくらい家の規模があった方がいいのよ。
私の姉妹なんて、3000人もいるんだから。
今日は久しぶりの里帰り。
両親と顔を合わせるのは、妹の結婚式以来ね。
もっと言ってしまえば、ゆっくりお話をするのは大戦以来かしら。
あの戦いでは、両親に救われて、そして迷惑をかけたわ。
私がこちら側についた事で、両親はその立ち位置を責められた。
初めから“弟の愚行に手を貸すつもりはない”ってあちら側に加勢する意思を否定してはいたけれど、それはあくまで“否定”であって、何も私たちへの協力を約束したものではなかった。
なのに……。
“彼女”を預かって育てて、3000人姉妹の一番上の姉を説得してこちら側につかせて…。
どちら寄りであるかなんて、一目瞭然だったわ。
全て私のせいよね。
私さえいなければ、両親は中立を保っていられたのに。
そう言って悔んだら、父が優しく微笑んで言ってくれたわ。
私が“こちら側につかなければ、そもそも戦い自体が存在していない”と、“だからこうなる事は運命だったのだ”と。
確かにね、確かにそうなの。
私があの方を助けたりしなければ世界が変わったりはしなかった。
こうして戦いに勝てたから良いものの、もし負けていたらと思うと…。
恐怖で体が震えあがりそうよ。
父はあちら側の長兄で、母は末妹なのだけれど、そんな血縁も揉み消して、両親を監獄へ閉じ込めるのは目に見えている。
彼らの事だから、それだけでは飽き足らず、それ以上の拷問や辱めを尽くすのだって想像がつくわ。
本当に、本当に勝てて良かった。
今更ながら、心からそう思えるわ。
だから、と言うわけではないけれど、私は両親をずっと大切にしていきたいの。
ずっとずっと―――私たちの場合、途方もない位の“ずっと”。
いいでしょう?
娘が親にべったりでも。
すごくすごく、大切な人なんだから。
「ただいま。」
私はドキドキと胸を躍らせながら、実家の扉を開けた。
里帰りって、何度しても一番初めの“ただいま”が緊張するのよね。
尤も、心地良い緊張なんだけれども。
「おかえり。」
すぐに母が出迎えてくれた。
少し遅れて―――。
「おかえりなさい。待っていましたよ。」
奥から父が顔を覘かせた。
ふふ、女性みたいに丁寧な口調でしょう?
相手がどこの誰であろうと、例え私たち実の子であろうと、この口調は変わらないの。
母曰く、動揺すると敬語が抜けるらしいのだけど、残念ながら私は聞いた事が無いわ。
父は驚くくらい穏やかで、落ち着いた性格をしているから。
「“待っていた”?
…さては、私が来るのを感じ取っていたのね?」
私は里帰りを予め両親には告知していない。
突然帰ってきて、出来れば驚かせたいもの。
けれど、成功した試しはない。
何故ならば…。
「娘のそれくらい、感じ取れなくて何が親ですか。
貴女が陸地から飛び込んで直後から分っていましたよ。」
陸地から飛び込んだ直後って…。
凄いわ…流石ね。
頭が上がらない。
「ふふふ、親を出し抜こうだなんて、貴女が誰かの親になるまでは絶対に無理よ?」
母がコロコロと喉を鳴らした。
「立ち話もなんです、奥でゆっくりくつろぎましょう。
さぁ、お前も。」
「ええ、あなた。」
父が柔和な物腰で私を部屋の奥へと誘う。
同時に母の腰に手を置いて、自然な動作で母をエスコートした。
…おしどり夫婦ね。
こっちが照れてしまうわ。
母と私がテーブルに着くと、父が「とっておきです。」と言ってネクタルを持ってきた。
この界隈のネクタルね。
えっと…―――アト……?
あぁ、義理弟君の。
因みに、私の父は結構家事が好きみたい。お料理もお掃除も率先して行っているわ。
だからこうしてお茶の用意も父が我先にとやってくれたりするの。
母に、自分へ私たち3000人の子を産んでくれた感謝を捧げたいのですって。
「あの子、幸せにやっているみたいね。」
嫁に出した娘を想って、母が微笑む。
「そうね、良かったわ。
私が勧めた結婚だから、実のところその後が心配で心配で。」
母に応えて、私が言う。