Side Story

□過去の拍手たち
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『交差〜かの聖衣〜




コン コン コン



ここは……何処かしら?

真っ暗だわ。



コン コン コン



この音は何?

金属と金属のぶつかるような、軽くて高い音。



ガッガッガッ



………。

音が変化したわ。



ガッガッガッ



今度は小刻みでリズミカルな、固い金属を削る繊細な音。

削る事も勿論だけど、変形させる時にもこんな音がするわよね。



コン コン コン



音が元に戻ったわ。


……どうやら繰り返しの作業なのね。


って事は、このお音は金属を引き延ばす音なのかしら?

音の響き方がさっきよりも甲高い。


トンカチで金板を打ち延ばす―――。


そんなイメージの音。





私の想像は、どうやら正解だったみたい。





急に目の前が開けた。


“開けた”…っていっても、私の正面にスゥっと1本の光が下りただけ。

舞台の演劇でも見ているかのように、それはスポットライトを浴びて目の前に浮かび上がった。



女の人だわ。



長い黒髪を高く結上げて、長衣を身に纏っている。

地べたにしゃがみ込んで、手元の黄金の板を一心に見下ろしているわ。



かなり位の高い方のようね…。


左手の薬指には樫で出来た指輪。

旦那様の標徴なのかしら?

となると、この女性の旦那様はとても上位の方なのね。


現王の象徴する聖なる植物も樫―――。


それと同じものを身に付けるのだから、あの方に限りなく近しい者になる。



………。

………。

………。

そんな方、いたかしら?



一番目のお兄様は、白い西洋はこ柳。

二番目のお兄様は、確か松だったと思うわ。


お父様は――…。

多分、絶対在りえないし。


思い当る方がいないわね…。




コン コン コン



そんな事を考えていると、光に照らされた女性は黄金の板を打ち始めた。


彼女の右手には金のトンカチ。

脇にはノミが置いてある。


“ガッガッガッ”っていう音は、ノミを使った時の音のようね。




私は彼女に近付いた。



……あら?

歩いているのに、足音が出ない。

何て言うか…こう、体重も無い感じ。


死――…は、私には絶対に訪れないけれど、死んでしまったらこんなカンジになるのかしら?



私は不思議な浮遊感に、身体をふわりと一回転させた。

その動作に、光の中の女性がこちらを見る。



わぁ…。

なんて綺麗な方。


………。


………でも、何処かで見た様な?


ヘンね。

こんな美人、一度会ったら忘れなさそうだけれど。



黒髪の美女はふ、と淡く微笑んだ。

少しだけ物悲しそうな笑顔。

儚げなその面差しが、彼女を一層美しく彩る。



「こんにちは。
とても不思議に思っているのではなくて?」

女性が薄桃色の唇を動かした。



『え?』

!!!

何?これ…。


私の声が空気に振動している?



「仕方がないのよ。貴女の今の状況的にね。」


私の疑問に答える様に、彼女が口を開いた。

私の……頭の中が読めているの…?



「いいえ、違うわ。私も以前“貴女”だっただけ。
貴女もいずれ時が経てば“私”になるわ。」


………。


「訳が分からない、って顔ね。
いいのよ、それで。いずれ分るから。」




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