Side Story

□過去の拍手たち
12ページ/27ページ






「こんにちは。」


私は此処の主へ呼びかけた。

空間一面に時計が並んでいる。

普通の時計と違うのは、針が無い事ね。


砂時計も―――砂が入っていない。

それでも不思議と、秒針の進む音と、砂の落ちる音がどこからともなく聞こえてくる。

時間を無限に有する事を、表しているみたい。



「君か。」


それらの音を縫うように、彼は現れた。


「あら、私意外に訪ねてくる方がいて?」


私はくすっとおどけて見せる。

彼はそんな私の頭をポンポンっと撫でると、空間の奥へ案内してくれた。


私の可愛げのない返事も、優しく許容してくれる心の広さ。

本当に居心地がいいわ。



「―――戦車、ありがとう。」

「なに、礼には及ばん。
私を知り訪ねてくれた、ほんの礼だ。」



彼が手をかざすと、何処からともなくテーブルセットとグラスが浮き走ってくる。

後に次いでネクタルの瓶。

テーブルとネクタルの可愛らしい追い駆けっこだわ。

彼は私に椅子を促すと、グラスにネクタルを注いで渡してくれた。


……いただきます。

最近振る舞ってばかりだったから、ちょっと擽ったい感覚。




「勝利したようだな。」


彼が開口した。


「ええ、おかげ様で。
今は時代の変革で大忙しよ。」


私はそれに応える。


そう、戦いが終わって、新たな王を迎えると、時代も新しく生まれ変わる。

時代。つまりは中央階層ね。


…初めての時代の変革。

これまでの時代が良すぎただけに、様々な心配を催すけど…。



「暗い顔をするでない。
例え苦い変革の結果となろうとも、彼らは未知数で強い。」

「……。」

「どのような困難が迫ろうとも、必ず未来へ繋がり、幸へと道を切り開く。」



彼の低く、空気に溶け込むような声音が、私の胸に響く。

彼の…“永遠”のこの方の言葉だからかしら。


なんという言葉の重み。



「そう、かしら。」

「―――。」



私の問いかけには、彼は返答しなかった。

代わりに、和やかな笑みを向けてくれる。



……ありがとう。

とても、とても心強いわ。







「―――1つ聞きたいのだか。」

「何?
畏まって。」


彼は真剣な面立ちで、私へ切り出した。

何かしら?



「新王に輿入れするとは誠か。」

「!!!」


聞かされた言葉の衝撃に、私は思わず咽返る。

ちょっと、何で?

何でそんな事知っているのよ?


「ここは全ての理を絶った空間。
良しも悪しも、平等に存在する。戯も同様だ。」


私の疑問を知ってか知らずが、彼はそう言った。


「新王が弟夫婦の婚礼中に、想い人へ気持ちを遂げたと、ここまで聞き及んでいる。」


成程ね、筒抜けなの。



「して、婚儀は…。」

「遂げてません。まだ考え中です。」


私はピシャリと言った。



「さよか。
…自身が“想い人”である事は、認めるようになったのだな。」

「!!」



わっ、揚げ足取られた。


……仕方ないでしょう? 認めるしか。

決定的な事、言われちゃったし。




「貴方は全部知っているのね…。」

「………。」



諦めに溜息を混ぜて微笑むと、彼もフッと、笑みを返してくれた。


直後、若干の暗が彼の顔に覆い被さる。



「?どうかして?」


不安を過ぎられるその表情に、私の胸も高鳴った。


「いや…、良い。
気のせいだ。」


気のせいって…貴方のプレースから考えると、気のせいって事も無いような気がするけど。

言えないような事なのかしら?



「………そなたは私の大切な友人だ。
この世界で、もはや私を知り得るただ一人の者と言って良い。」

「え、…ええ。
―――ありがとう。」



彼が徐に言吐いた。


いきなり…どうしたの?

友人とか、嬉しいけど。



「そなたに約束しよう。」

「約束?」

「うむ。」

「―――。」



そう断言した彼の表情は、さっきと変わらず闇を落している。

冷静だけど、裏に何らかの含みを持って。



「そなたに危機が迫った時、私はそなたを守り抜こう。
この永久に連なる刻の術を要して。」

「…え?
危機?守るって…――何の事?」

「それが私に“友との至福”を与えてくれた、そなたへの礼だ。」



私の問いに、彼は答えない。

多分きっと、問いただしたところで答えてはくれない。




「何だかよく分からないけど…。
貴方が味方なのは心強いわ。」


なんと言っても、あの戦車を作った方だし。


「分らずとも良い。
分らないままの方が良いのだ。」


………更に意味不明だけと。

話の流れから察するに、あの方と結婚すると、私に危険が及ぶって事ね。



………。

あの方と出会ってこちら、危ない事だらけな気がするわ。



まぁ。

………結婚するかどうか、まだ分らないし。

想いはさておき、結婚となったら色々と問題が生じるでしょう?



「そなたは新王へ嫁ぐ。」

「………。」


私の心を読まないでよ。




「どうしてそう思うの?」

「理を退けた全てのものが、そう告げている。」

「………。」



だから、ね。

貴方のプレースから考えると、貴方の言葉、無視できないのよ。






あぁ…。

困ったわ。


付き合う付き合わない何て軽く飛び越えて、あの方のせいでとんでもない方向に話が進んでいる。

しかも、この方から確言まで頂いてしまって…。



本当に本当。

どうしたものかしら…。







〜忘却の彼方に 終〜

過去の拍手目次へ戻る



聖闘士星矢TOPへ戻る
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ