Side Story
□過去の拍手たち
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祭壇へ到達すると、新婦は新郎から腕を抜いた。
祭壇に佇む6つの瞳が、彼らを見下ろす。
一番上のお姉様が、祈りの言葉を降らせた。
「火よ。煌々と燃え称え、悠久に炉を灯し続けたまえ。
この夫婦が永久<とわ>に凍える事の無いように。」
祈りは彼女の唇から光となって上昇し、キラキラと粒になって若き男女に降り注ぐ。
「大地よ。花を咲かせ、露に溢れし命の綱を、枯らす事なく実らせたまえ。
この夫婦が永久に飢える事のないように。」
二番目のお姉様の言葉は、地に向かって放たれ、揃い立つ二人の身を覆った。
「契よ。二人を結び、解けることなく、繋ぎ続けたまえ。
如何なる嵐の中でも、如何なる業の中でも、この夫婦が永久に供に在れるように。」
3番目のお姉さまの祈りは、新郎と新婦の心臓を包み込むように、互いのハートに溶け込んでいった。
「「「さぁ。誓いの口づけを。」」」
小さい頃の思い出が、走馬灯のように駆け巡る。
3000人の姉妹の中で、落ち凝れと言われたあなた。
それでも、そんなこと全く気にしないで、笑って、時には怒って泣いて…手が掛かったあなた。
私の後ばかりついて回って、私がいないと不安で喚いたあなた。
いつまでも小さいと思っていたら。
気が付いたら蝶の様に成長して。
私に力を貸してくれた。私の味方をしてくれた。
ありがとう。
ありがとう。
救われていたわ。
助けられていたわ。
あなたのおかげで、心細い輪の中を、強く凛としていられた。
ありがとう。
何度言っても足りないわ。
だから、何度でも言うわ。
ありがとう。
幸せになってね。
私の、大切な、大切な―――。
大好きなあなた。
感無量で泣けてくる。
どうしよう、肩が震えるわ。
神殿から出てしまえば良いんでしょうけど。
嫌よ。
妹の姿を最後まで焼き付けておきたい。
キュッと唇を噛みしめて、色々な感情を堪えていたら。
後ろからそっと、温かい手に肩を引き寄せられた。
後頭部が熱い胸板と接触をする。
抱き締められたわけでもないのに、背中がぴったりと密着していた。
私の身体は、無防備に彼に預けられている。
馬鹿。
本当に泣いてしまうわ。
私の妹、貴方の義姉になったのよ?
苛めないでね。
可愛がってあげてね。
背中から伝わってくる、自分以外の熱。
温かくて、ホッとして、でも何故かときめいて。
可愛い新婦さん。
貴女も新郎さんに、こんな思いを抱いたのかしら?
耳元で彼が何か呟く。
むぅ。
私たちの式ですって?
まだまだ先よ。
青鬼さんに許しをもらって、ビッグネームにもご挨拶に行って。
それからのお話よ。
――――――。
―――――。
――――。
―――。
え?
私、今何を言ったの?
“まだまだ先?”
それじゃまるで…。
応えたみたいに、聞こえない?
ちょっとちょっと。
何を言っているのよ、私。何て恐れ多い。
男女の中でもあるまいし。
肩に置かれていた彼の腕が、首に回る。
右からも、左からも伸びるそれに、私は再び囲われた。
さっきよりも、幾分も強固に。
今度は父の名を出しても、解放などしてくれなさそう。
―――貴女を愛している。
――――。
結婚してくれ。
まるで貴方の織り出す雷<いかずち>のように、私の全身に稲妻が駆け巡った。
〜主よ人の望みの喜びよ 終〜
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