Side Story
□過去の拍手たち
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『追憶2:花の引力で』
貴方は今日も、花束を持ってきたわ。
両手いっぱいにしても抱えきれない位の、大きな花束。
使いの方に頼んで作っているとばかり思っていたのだけれど、どうやら違うみたい。
あの人が自分の手で、1本1本花を摘んでいるのですって。
私にどんな花が似合うか、ってそれはそれは楽しそうに摘むらしいわ。
他の人が手伝おうとすると、怒るらしいの。
自分以外の誰かの手が加われば、私への想いが曖昧で、くすんだものになってしまうのですって。
真っ直ぐに、ゆるぎない気持ちを私に伝えたい…って。
ねぇ、分っているの?
貴方の気持ちなんて、とうの昔に知っているのよ。
知っていても、まだ、信じられずにいるの。
甘くて扇情的で刺激的で…。
触れようものなら火傷しちゃうくらいの情熱を帯びて…。
畏怖を覚えるほどに素直な輝きを放って。
さすがに私だって、知らんぷり出来ないわ。
知らんぷりは出来ないけれど…。
知らない振りをしていたいの。
どうしてだか分かる?
今や貴方は私たちの王。
多くの女神たちが、貴方の傍らを狙っているのよ?
みんな貴方の魅力の虜なのよ?
どうして私なの?
嬉しいけど、困るわ。
貴方が望めば、私は貴方に逆らえない。
侍られる事を受け入れ、貴方を受け入れ、貴方の望むままに在らなければならない。
でも、貴方はそれをしない。
力づくで奪ってくれるなら、流れに身を任せられるのに、貴方はそれを許してくれない。
…それがとても怖いの。
私が貴方の胸に、飛び込んで来るのを待てるって、言っていたわね。
今はまだ待っているけど、辛抱できなくなると怖いから、早く自分に抱き締められろ、って真面目な顔で必死そうに言っていたわ。
やだ、思い出したら笑えて来ちゃう。
ねぇ?気付いていないんでしょう?
貴方がくれた数えきれない位の花たち。
すべて飾ってあるのよ。
綺麗に乾燥させて、お部屋に飾っているの。
どうしてかしら?捨てられないの。
きっと捨てられるのは、貴方だけ。
だから…
待ってなどいないで。
図々しく上り込んで、枯れた花など捨てろと言って。
お茶くらい、入れてあげるから。
花束を届けたら、直ぐに帰ってしまわないで。
お願い。
その胸に飛び込むだけの時間を、私に与えて…。
〜追憶2:花の引力で 終〜
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