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□GO! GO! Girl!!
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池の鯉よろしく口をぱくぱくしていると
「今頃気付いたのかい。…そっちのも買ってやるから払ってこい」
ケロリとした様子で財布を渡された。ていうか、ここ、下着屋なんですけど!?
何でおっさんそんなに堂々としてんだよ!?

「な、なん…」
突っ込みたいところはありすぎるけれど、何せ驚きすぎて言葉になってない。神出鬼没か!いや、変態か!!

「一緒に飯でもと思ったら、お前が先に町へ出たと聞いたんでねい」
そして道中ナースに会い、ここのことを聞いたのだ。

追いかけて来てみれば、通りから見える店内でたくさんの大きなショップ袋を肩から下げてなお買い物中の後ろ姿。
街を歩く他の女と変わらない様子。これじゃ、普通の女子じゃないか。
それでいて他の女よりよっぽど上等な見てくれと来た日にゃ、よくここまで男の一人や二人に声かけられずいられたものだと思ってしまった。(実際は買い物という戦いを前に、殺気立つアンが恐ろしくて人波が割れていたのだが)

「飯?マルコ奢ってくれんの!?」
飯、という言葉に敏感に反応したアンは、途端に意識をそちらへ飛ばす。その様子はもういつものアンに戻っていて、マルコは苦笑を漏らす。色気より食い気か。
そしてまた俺の奢りか…まあいい。
マルコはこっそり安堵の息をついた。

本当は。
探して追いついて、見つけた先にいた後姿にどきりとした。両肩に下げた紙袋に隠れる無防備で華奢な背中。いつもより露出の少ない服装は本当に普通の女で、捕まえておかなければ人ごみに混じって消えそうな危うさを感じた。

背中の誇りも隠されて、荒々しい普段の海賊の姿とはかなりかけ離れた女の恰好をしているアンを見て、柄にもなく焦った。
俺より先に誰かに声掛けられたりなんかしたらどうする。身勝手な嫉妬だが、マルコはその感情を肯定した。本当は自分以外誰にも隣に並ばせたくないのだ。
らしくない、大人げないのは自覚しているから、始末に負えない。
この頃はいい大人のはずの自分が、こんな小娘にいちいち振り回されっぱなしなのだから終わってる。

「おまたせ!」
店外の壁に持たれたマルコの目の前にアンがぴょこん、と現れる。
「お会計してきた!…マルコ、あたしの財布のライフは瀕死だよ…」
「俺の財布から払ったんじゃねえのかい」
「ばか。さすがのあたしだって、あっちもこっちも金出させたりしねぇよ」

アンは唇を尖がらせて続ける。
「マルコ飯奢ってくれるっていったじゃんか。あたし今超おなか減ってるから、いっぱい食べる自信あるもん」
飯代は出させても、服代まで出させるつもりはないらしい。アンらしからぬ遠慮がかわいくて、癖のある髪をくしゃくしゃと撫でた。
「たらふく食わせてやるよい」
「やったー!マルコ、大好き!!…ねえねえマルコ、これってデートかな?」

「そうかもな」
短く答えてやると、こちらを見上げるアンの頬がぱっとピンク色に変わった。マルコの前でだけ見せる顔だった。
「そっか!じゃあ、あらためてしゅっぱーつ!」
いざ飯屋!紙袋をガサガサと担ぎ直し弾む足取りで歩きだす速さに合わせて、マルコは並んで歩き出した。














end!



20120629

その後。



「食いてェもんはあるか?」
「えーと、にく!」
「言うと思ったよい」
「マルコは何食べる?」
「酒がありゃあいいよい…荷物かせ」
「えっ、いいよこれくらい」
「手ェ塞がってんだろうが、半分よこせ」
「う、うん…えっ、手、つなぐの?」
「はぐれるだろい」
「…うん…ありがとマルコ。大好き」
「よい」
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