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□ノンスウィートバットアンチビター1
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「あたし、マルコのこと好きみたいなんだけど」

消灯前、提出ギリギリの書類を持ってきたアンは、差し出された隊の報告書を受け取ろうとした俺の手から紙片を逃すように引いて、そんな一言を投げつけた。

「…あァ?」

驚きは半分。それから大事な書類を待たされたあげく子供じみたいたずらをされ少し苛ついた気持ちも混じり少し強めの声が出た。

「だから、マルコが好きかもって」

「そりゃあありがとうよい」

さっさと寄越せと開いたままの掌に持ち上げた紙片をパサリと落とすと、書類にかアンの言葉になのか、おざなりな礼が返されてアンは口を尖らせた。

「そうじゃなくってさ」
アンの行動が突然なのはいつものことで、言いだすことだって脈絡がなくて突拍子もない。
今回のそれもやっぱり理解しがたい種類の内容で、アンに限らず若いやつというのはこういうもんかとマルコは頭の中で年齢でひとくくりにしてみたりする。
完全におっさんの考えになっているなとは思うが、世代の差で片付けないことには不可解すぎるほど彼女の思考は理解しがたいので仕様がない。

「なんか、オヤジとかサッチとか他のクルーたちとは違うんだよね、最初から。ぜんぜん家族として見られないっつーか?」

アンは続ける。最初から。その言葉に今まで家族のつもりで接してきていたマルコとしては、少し虚しいようなさみしい気持ちが出てこないわけがなく。

「だからさ、マルコと寝てみたらどうかなって思ったんだけど」

じわり湧きあがる感情に眉を顰めかけて、さらに続いたアンの言葉に、胸の中のものが欠片もなくぶっ飛び瞠目するしかなかった。


…言い訳というものをさせてもらえば、今回の航行は長くかれこれ2か月近く陸に上がっていなかったことと、その日は朝からずっと、つい先ほどまで雑多な用事に追われ続けていて、体力的にも相当の疲れがたまっていたという状態だったのも理由にしてしまいたかった。

男というのは体が疲労すれば本能的に欲求が湧きあがって、とにかくやりたくなる。そんな時に飛び切りの体をした若い女が夜も遅く、ランプの明かりの中そういう雰囲気でもって誘って来れば、理性というものがグラつく。いや、跡形なく飛んで行ってしまうもので…たとえ愛すべき妹分だったとしても、今さっきそれを否定しその上自分のことを好きかもとか言う女が「…マルコ、だめ?」そんなか細い声で問うてくれば。

風呂上がりの花のにおいをさせたアンの肌が間近に迫り、首筋に抱きつくように細い腕をからみつかせ縋ってこられ、少ない着衣の白い肌をシャツを羽織っただけの刺青も露わな自分の胸元に密着させられ、熱っぽい眼差しを上目づかいに向けられれば、すぐそばにある唇を奪わずにはいられなかった。
アンの唇とその中身は甘く、吐息ごと貪るように全部食らい尽くした。

「…っ、…んふ……」

時折苦しそうに漏れた声もマルコを煽り、理性の箍が外れた。



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