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□『朝になった、夢じゃなかった』
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[Good morning Kiss]
瞼の向こうに朝日を感じ、微睡みの中ゆっくりと意識が覚醒していく。
それとともに体の感覚もはっきりしてきて、自分がどんな状態でいるのかを感じた。素肌に直接触れるシーツの感触。背中に感じる、人のあたたかさ。自分ちの寝床でもよく弟と寝ていることはあるが、そうじゃない。だって俺よりでかい、まるで包み込むように被う体温。腰のあたりに回された腕はたくましく、一番いとしいもののひとつだった。
もちろんエースには、振り返らなくてもそれらが誰のものかは分かっている。
信じられない。
じわじわと脳裏に滲み出てくるのは昨日の記憶。それから嬉しい気持ち。全てをさらけ出した羞恥。このぬくもりと相手へのいとおしさ。それから…夢じゃなかった、安堵感。
「…よかった」
「何がだよい」
「わああ!」
ぽつりと溢せば、すぐに背後から返ってきた声。エースの体がびくりと跳ね上がった。
「…っ、起きてたのかよ」
「少し前からな。…何がよかったんだよい」
昨日のセックスがか、と平然とした顔で信じられないことを口にするオッサンに、デリカシーを大切にする年頃の若者は「違うバカ!」と顔を真っ赤にしながら怒る。
けれどエースは妙なところで律儀なところがあるから、散々内心で毒づいたあと「…よ、よかった、んだけど、さ……」などとご丁寧に感想を述べてくる。
そこが可愛いのだと常々思っているマルコは、苦笑を堪えながら「どうも」と答えた。その声音に嘲りの様子のないのに納得してから、エースはようやくゆっくりと口を開いて素直に答える。
「…昨日のこと……夢じゃねぇんだなって、思ったら…嬉しかったんだよ」
こういう事をきちんと口で伝えるのは恥ずかしい。顔は見えなくてもだ。最後の方は声が小さくなりボソボソと繋いだ。
「…」
「ンだよ」
柄にもないことを言ってしまった。まるで女が口にするようなセリフ。それなのに、自分から聞き出しといていつまでも返事をくれない男にきっと呆れられたと思いそっと見上げれば、マルコは口元を押さえていた。そしてその頬はいつもより赤くなっている気がする。マルコも赤面してる…?
「…オレもだ」
「は?」
覆った手の下からもごもご話すもんだから、何を言っているのかはっきり聞こえない。顔を覗き込めば視線を逸らしてこっちを見てくれない。埒が明かないので邪魔な手を強く引くと、しまいには目を閉じてしまった。その眉間にはすごい皺。苦いものでも口にしたかのようなひどい顔。照れているにもほどがあるだろう。
「オレも昨日のが夢でなくてホッとしてるよい」
まさかの彼からの返答に、エースはぽかんと口を開いたままで居るしかない。
「マルコ…」
「エース」
「うん?」
「覚悟しとけ。俺ァしつこいからな、こうなったからには絶対ェ離さねえぞ」
目を開けたマルコの眉間の皺は消えていない。低い声に、怒っているような怖い顔。物騒な言葉。なのに全部が嬉しくて愛しいとしかエースには思えなかった。
大好きだ。この男の声が。手が。全部が…マルコ。
精一杯の気持ちを込めて答えた。
「のぞむところだ」
俺だってしつけえからな。エースは片頬を吊り上げた生意気な笑みの形になった唇を、彼のそれにくっつけた。
end.
20121201
お初マルエー!\(^o^)/