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□Home! Sweet Home!
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「マルコ、ちょっとこっち」
夕食後の後片付けを済まし(皿洗いはいつもマルコの担当だ)先にアンが寛いでいるだろう居間へ向かおうとしたら、何故か別室にいたアンに呼ばれた。

「何だよい」
「いいから、こっちきて寝て?」
和室の床に正座したアンは、ポンポンと折り畳まれた膝を示す。
「…?」
膝枕なら今更わざわざ誘うほどのものでもないだろう。が、アンの突然には慣れているし、断る理由も無いので大人しく従った。

「前からやりたかったんだ…動いちゃだめだよ」
そう言ってアンはマルコの耳を軽く掴んでそっと引っ張った。
「何、」
「じっとしてて」
そして耳にそっと何か差し入れられる感覚。一瞬緊張で体が強張りかけたが、すぐに何をされているのかが分かって力を抜いた。

「…先に何をするか言えよい」
目を閉じながら抗議すると、へへ、と笑う声が密着した部分から聞こえた。
「だって、嫌がられるかと思ってさ。あたし上手いんだよ?よくルフィにやってたから」
だからさせて?
穏やかな声で、そうお願いされてはマルコは拒絶できない。
何より、その間もアンの手の竹製の耳掻きはマルコの耳の中で仕事を始めているのだ。お願いする順序がめちゃくちゃだろう
と思ったが、マルコは考えを放棄してしまった。
神経がアンの触る耳に勝手に集中して、意識を持っていかれるのだ。
つまり、かなりすごく気持ちいい。
(…やべェな)
マルコはこっそり驚いていた。
こういうことを人にされるのは初めてだった。
今まで特に意識せずただのメンテナンスとして自分でやってきたことが、人にされるだけでこんなに感覚が違うとは。

耳穴をそっと、優しく優しく引っ掻かれる。擽るよりデリケートな、少しの力で。
アンの手つきと力加減は絶妙で、アンの言う通り確かに上手かった。

「マルコ、気持ちいい?」
「ん」
短い短い返事。それだけで充分だった。こういう時、ほんとに気持ちがいい時にはろくに返事も出来ないものだとアンは知っている。

(マルコがうっとりしてる…!)
アンは密かに感動しまくっていた。
自分よりずっと年上で、体も大きい大人のマルコが長い体を投げ出して、アンの膝の上に頭を預けて、これ以上ないくらい無防備になっているなんて…!
耳掃除は、アンが奥さんとして旦那さんにしたかったことのひとつだったので、(無理やりとはいえ)やらせてもらえただけで満足だったのに、まさかマルコのこんな反応が見られるとまでは思って
も見なかった。
予想外の収穫に満足以上の感動を得てしまった。
(くそう!マルコがかわいい…!!)
声に出してしまいたいのをなんとか我慢する。
かわいいとか本人に言ったら逃げられそうだし、いきなり大きな声をあげたらマルコがビクッてなるし。それは危ないし。
胸いっぱいになった愛情が漏れ出さないように、アンは唇をぎゅっとつぐんだ。


◇ ◇ ◇


「はい、終了ー」
途中マルコに反対を向いてもらい、最後に耳掻きの反対側、ふわふわの方でくるくる、仕上げに細かいのを払ったらおしまい。
両耳ともきれいにして、アンの仕事が終わった。
「…」
「マルコ?寝ちゃった?」
今はアンの腹に顔を向けて目を閉じたままのマルコに、もしや寝てしまったのかと声かけると、アンの腰に腕がまわされがっちり捕まえられた。起きてるじゃんか。タヌキか!
「あっ、こら」
「動きたくねぇよい」
下腹あたりからくぐもった声。腕に力が込められ、膝の間…というか胯間に顔を押し付けられてしまった。
「もー!セクハラじゃん!」
腰をホールドされては身動きできないし、逃げられない。くっそ!

「アン」
「なに」
恥ずかしいけれど、どうせすぐ息苦しくなって離すだろうとあっさり抵抗を諦めていたら、またくぐもった声。
「…好きだよい」
滅多に聞けない言葉を、そんなところから頂いてしまった。
(ぎゃー!今日のマルコ、ほんとにかわいい!!)
アンはさっきよりも大量に迸る愛情に身悶えした。しかも今度は我慢しなくてもいい。愛情表現は全身で!
「あたしもっ!大好きだよマルコー!!」
そう言って膝の上のマルコの頭を抱え込むように抱きついた。加減なしで。アンの怪力で。

「…っ!、っっ…!?」
アンの腰にあった手がバン、バン、とアンの背中を叩く。死ぬ、マジで窒息する、こらアン、おい、放せ。せめて足開け少し。空気を入れろ。相変わらずいい脚しやがって。風呂も入ったからすべすべ割り増しか。ずっといい匂いまでさせていやがって。でも今はこれに殺される。
意識が遠退きかけたとき、突然思いついて目の前の肉をべろりと舐めてやった。
「ぎゃっ!?」
途端飛び退く体。反応が良くて結構だ。ようやく死地から解放された。…嫁の膝の上が死地って何だ。まだ新婚なのに。
「マルコ何すんの!」
「こっ、ちの…台詞だ、よい…っ」
ぜいぜい、肩を上下させて新鮮な空気を取り込みつつ反論しておく。お前はいつも過激すぎる。
「あー…」
その様子でアンは自分のしたことに気付く。やっばい。旦那さんヤッちまうところだった…!
「す、すいませんでした…」
しょんぼり。そんな音が聞こえて来そうなアンにもう怒ってはいないが、言っておくことはあるのだ。

「アン」
「はいぃっ!」
「…後で覚悟しとけよい」
いい意味と、悪い意味でのお返しをしてやる。起き上がる途中、中腰でアンの顔に近付き、掠めるように唇にキスをしてやった。
「へっ!?あ、あー…」
この後って…就寝しかする事は残ってないわけで。ベッドの上で覚悟することって言ったら。
「りょ、了解…」
アンが真っ赤になって答えると、マルコはアンの髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜるように撫でまわすと、
「先に行ってるよい」
意地悪に笑いながら、言い残して部屋を出ていった。
後には髪はぼさぼさ、顔は真っ赤のアンが残るばかり。アンは思うのだった。

(やっぱり、かわいくない!)






end.


20120628
無防備なマルコが書きたかったんだ。

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