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□さいしょのはなし
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何度目かになるキスだった。
掠われていくばかりの絡まりに、ようやく応えられるようになってきたくらいには慣れた頃の。
伝わる熱さとか優しく荒々しい動き、熱情。洩れる吐息や湿った音。
触れ合わさったところから伝わってくる情報に夢中で意識をしがみつかせていたら、慣れない肌の感触に急に引き戻された気がして顔を離した。

「…っ、な…なに」

見下ろせばいつの間にか身に付けていた衣服(といっても上はビキニブラ一枚だけだけど)がかろうじて引っ掛かっているだけの上身があって。
それから露になった乳房を包む大きな手のひら、という予想していなかった様にびしりと身体が硬直してしまった。

「あっ、わ…ま、マルコっ、これっ?」

緊張が触れた手のひらから伝わったのだろう、見上げたマルコの表情は怪訝そうに眉のかたちを変えたそれで、少し怖い顔をしていた。

「もしかしてお前」

「へっ」

「初めてか」

「あ、あー…、うん、そう。…だ、けど…」

責められているような気になって、もごもごと答えた。
隠してたつもりもなかったし、それが悪いことだとも思ってはいなかった。けれどなんとなく申し訳のないような気持ちにはなって、それが途切れ途切れの返事にさせる。

マルコは、ふー、といつもタバコを吸っている時のように長く深い息を吐いた。それが溜め息だと気付いてさっきとは違う意味で体を固くする。胃の辺りがずうんと重くなるのを感じた。
慣れてない相手とはしたくなかったのかな。マルコの顔をまっすぐに見られなくなってきた。視線がどんどん下がっていく。

初めてじゃだめなの?
やめるの?
しないの?
もしかして嫌いになった?
のどまで出かかった言葉はそこから先に飛び出すことはなかった。
口にしてしまったら、それらをマルコから否定で返されてしまったら、ちょっと立ち直れないんじゃないだろうか。「…お前な」ちょっとの間のあとマルコが口を開く。思わず息をつめた。

「そういうことは早く言えよい」

「ご、ごめ…」

けれどあたしの心配をよそに、マルコは言葉を続ける。「言っておくが」上げられない頭の上に低い声が被さる。肩口に置かれた手のひらが背中に滑る。

「止めるつもりァねえからな」

「へっ!?」

予想外だったマルコの言葉につい出てきた音は、どんな意味のそれに聞こえたのだろう。
勢いではね上がった視線でとらえたのは、えらく不機嫌そうなそうでないような、見たことのない表情のマルコの顔だった。

もしかして…照れている? マルコが? まさかの考えについまじまじと見つめてしまえば、マルコの方から目を逸らし、言葉を続ける。

「今日まで待ってやったんだ、いい加減俺のモンにしちまってもバチ当たらねぇだろい」

初めてならちっとばかし、やり方が変わるだけだ。
などとあたしにはよく分からない、謎の発言を付け足してきた。どういうことだ。分からないけど、とりあえず止める気はないらしい。ホッとした。強ばってた身体が解されるような感覚があった。

「あの、あのさっ、マルコ」

「あァ!?」

「あたしが初めてとか…嫌じゃないの…?」

「嫌なわけあるか。むしろ自制が効かなくなるところだったよい」

お前みてえなガキにこっちはやられっぱなしだ。
あいにく処女相手にすんのは初めてだからな、覚悟しとけ。
そんなおそろしいことを言うマルコに、けれどちっともこわく感じないのが不思議だった。それどころか。
どうしよう、うれしい。

「…マル、」

「もう黙ってろい」

おしゃべりはここまでと、背中を支える手がゆっくり下に下りていく。ひくりと背筋がつっぱるような感覚。
首すじを辿る唇がそこに噛みつくような動きになった。この男のくれる温度が喜びになる。そう感じる。

あたしはまた意識をマルコに委ねて、普段は届かない彼の髪をそっと指先で梳いて撫でた。





end.

20121113

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