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□T and T, or T and T.
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昼食を食い終えた食堂で、皿を返して席に戻りだらだらと過ごしていたら、同じく目の前でのんびりコーヒーをすすっていたマルコが書類から顔を上げた。

「おいエース」

「なに?」

「2つあってどっちがいいか聞かれたら、お前どう答える?」

「何だそりゃ?…ああと、もちろん両方って答えるぜ!」

海賊だからな!くれるってもんは全部貰っちまうのが流儀だろうとエースは胸を張って答えた。

「だろうと思ったよい」

俺の返事にそう言ってニヤリと笑った男は、エースの目の前にひとつ、シャツのポケットから小さな明るい色の包みを取り出した。
意味がわからず首を傾げ眺めていると、一瞬だけそれをこちらにくれるような動きを見せたので、思わずエースは手を伸ばす。すると、マルコはフェイントのようにそれを引っ込めた。

「っ、何だよ!?」

くれるもんだと思っていたら、取り上げられた。マルコの不快な行動にエースが少し苛立った声をあげると「こうするんだ」先ほど取り上げた小さな包みの端を捻り開けて、中身を自分の口に放り込んだ。

「ああっ!」

「…甘ぇよい」

「何だよマルコ、くれんじゃねえのか、よっ……んん!?」

舌の上に乗っただけで口内に広がる甘い味に顰めた表情を見せる男は、声を荒げる目の前の青年の後頭を掴みぐい、と引き寄せ険しい顔を近付けた。
そのまま合わさる唇に、驚いたエースが頭を離そうとするが、いまだがっちりと掴まれたままの彼の掌に阻まれて逃れることは出来ない。

「んん…! んぅっ!」

もちろんあがる抗議は全て飲み込まれ、エースがマルコの肩を掴みかけたその時。わずかに開いた唇の隙間から、ぬるりと入り込んでくる異物に驚いた。
何を押し込まれたのかは口内に広がる甘さですぐに分かった。たった今この男が自分の口に入れたものが何かを。

(このおっさん、口移しでアメくれやがった…!)
彼がしたことをエースが気付いた頃には遅かった。なんてことしやがる。しかも、こんな人前で…!
驚きに目を見開いているとようやく顔が離れていく。

「お望み通り、両方だ。トリック・アンド・トリートだな」

そんな事をしれっとした様子で言ってのける男は、大変悪い顔を見せて席を立つ。

「なっ…!」

ひらひらと肩越しに手を振って食堂を出ていくマルコの最後の言葉に、やっと今日が何の日だったかを思い出した。くっそ!

後に残されたエースは、マルコがいなくなるのと同時に注がれる好奇心丸出しな周囲からの視線に居た堪れずに立ち上がった。…あのおっさん、なんて場所でなんてコトしやがるんだ…!
体中の血が首から上に集中して、耳までかっかしている。まわりの奴らの顔も見返せず、背中に垂らしたウエスタンハットを目深に被りガコンガコンとブーツで床を蹴るようにして食堂を出た。逃げてきたんじゃねえぞ。用が済んだから出てきただけだ。断じて逃げちゃいねえ。

ざっと頭の中で今日の隊の予定をさらいながら、あのクソどスケベオッサンと自分が夜には非番であることを確認する。

今夜はハロウィンだ。
悪戯かもてなしかなんで聞いてやらない。あいつの部屋に押しかけて一番にさっきの仕返しをキメてやろうと、エースはどんな内容のいたずらにしてやるかの計画を練り始めた。

(トリック・アンド・トリックだぜ…!)

数時間後には何事においても自分を上回る策士である年長の恋人に、散々翻弄されて降伏するしかなくなってしまう結末があることを、拳を握り意気込むエースはまだ知らなかった。



Happy Halloween !!!

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