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□せかいのおわり
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今までアンは自分のことを強いものだと信じて生きてきた。
誰にも負けない、一人で生きていける自信。心と体、どちらともの強さ。そんなものが自分にあるのだと思っていた。
実際今までやってきた分にはその通りだったし、間違っちゃいない考えだと思う。

だけど今。この男の腕の中でアンの信じてきた世界が崩れている。現在進行形で。
なのに惜しくない。怖くない。嫌じゃない。嬉しい。

今あたしを腕の中に閉じ込めて、心臓が止まりそうなくらいぎゅうぎゅうに抱きしめてくるこの男と、その力の強さとか体格差とか経験値の違い、そんなものがすべて敵わない。
男との身長差、体格差で、上から覆い被さるように抱き潰されて、息が詰まって、このまま命を終えることもできそうなくらいあたしの命は容易い。脆い。
この無力感がしあわせだなんて。そう思える時がまさか来るとは思わなかった。

「…マルコ、」
愛しさに彼の名を呼んだ。いつにない、か細い響きになって漏れ出た自分の声。あたしは声まで弱い。アンは思った。
締め付けるような抱擁が緩くなる。
「悪かった。加減なしだった」素直に謝る声が頭の上からと、押し当てられた胸の中から聞こえて響いた。低くて穏やかな声。大人の男のそれ。
きつく抱いたのを咎めるべく名を呼んだのだと思ったらしい。アンはゆっくりと首を横に振った。

「嫌じゃない。マルコがすき」
口にしたのは今思ってること全部。体だけじゃなくて、心まで委ねた。アンは空っぽになった。
「アン」名を呼ばれた。彼の声で。低い低い男の声で。男の声は欲に濡れている。何もなくなったと思っていたアンの、更に名前まで奪われたような気がした。「マルコ、マルコ」体も心も名前まで奪われた自分には、もう彼という存在しかない。名を呼ぶことで彼にしがみついた。

「アン、好きだ、アン」
熱のこもった声。世界が反転する。次に奪われたのは自由。アンが気付かなかったアンの持っているものを、この男は次々と取り上げていく。けど嫌じゃない。マルコになら。
もみくちゃにされ熱を植え付けられるのも、せり上がる欲を解放させられるのも、体深くに熱を穿たれるのも、全部。
全部マルコにされるならいい。

信じていた世界を全て取り上げられた。
海賊らしい、荒々しさで。けれど最初に彼の心を奪ったのはこちらで、自分もやっぱり海賊だからやっぱり乱暴に奪い取ったのだろう。お互い様かもしれない。奪ったものは本当に欲しいものだったので、それと引き換えにした自分の全てには後悔はない。
傍にあるぬくもりに身を寄せると、反対側にまわされていた腕がぴったりとアンを包んだ。
アンはその温かさに包まれて目を閉じた。






end.



20120626

Title:世界の終わり/TheeMichelGunElephant
お初エロ・ニュアンス風。

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