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□GO! GO! Girl!!
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眩しい陽射しに、頬をなでる爽やかな風。
とある夏島の初夏の気候をまとう港に、羽織ったシャツの裾を游がせて、白鯨を模した船からアンは降り立った。

「ん〜、いい天気!」
丘から流れる薫風を胸いっぱい吸い込んで思わず伸びをすれば、後ろから涼やかな声が掛けられる。

「どこ行くんだい、えれェめかしこんで」
「イゾウ!おかえり!!
振り返れば、朝から買い出しに出掛けていた筈の和服の美丈夫が、荷を片手にそこにいた。

「デートの待ち合わせか?」
形のいいの唇の端がニヤリと上がる。
「まっさか!ただの買い物だよ」
「勿体ねえなあ、せっかくキマッてんのによう」
「…ありがと」
イゾウが人を褒めてるところは滅多に見ない。そんなイゾウに言われるのはかなり嬉しい。

「今度は俺とデートしようぜ?」
「いいよ、楽しみにしとく!」いってきます!
手を降って別れた。

今日のアンの格好は、いつもよりかなり露出が少ない。
やわらかい薄手の白シャツの下にはボディラインに張り付く黒のホルターネックのキャミソール。ダメージがたくさん入ったデニムは、アンの長い足にぴたりと沿って所々肌色を覗かせながら、踵の上がった焦げ茶のウエスタンブーツに納められている。

露出の過ぎる普段とは違い、布で覆われてる部分がほとんどな今日の出で立ちは、いつものアンを思えばクルーにとって目に優しいスタイルだったが、隠しすぎるほど隠れているのも逆にそそる。
特にデニムに隠された形のよいヒップラインはナマ肌も良いが布越しのあの拘束感もたまらねー!破れたジーンズから覗く肌とかもうアカン!!などと、隊員たちの本日の雄叫びの的になっているのをアンは知らない。気付いてない。…それはさておき。

男受けも、女受けもよろしいアンの今日の恰好はイゾウにも好評を貰え、今度から船上でもこういう格好もしようかな、と考えつつ歩き出す。

にぎやかな街だった。
白ひげの庇護下のこの島の繁華街は、大きくはないが、平和で長く栄えているところだと聞いている。
仲間が多く下船して過ごす街中を親父の誇りを背負ったいつもの恰好で歩いてもよかったが、ナースたちとの女同士の約束はいつにないテンションを呼んで、つい張り切ってしまった。
結局、約束には間に合いそうもない結果だったが、行きがけにイゾウに褒められたのでオーライだということにしとこう。

目指すはナースの姐さんに教えてもらったオススメのランジェリーショップ。今日は買い出しだ。

予算は6万ベリーくらい。ちょっとオーバーしたっていいが、その分今日の食事代が削られる。
この島を出たらしばらくはこういう買い物も出来そうにないし。
下着は消耗品だ。ナースはともかく男ばかりの船の上でこればっかりは替えがきかない。ちょっと多目に買っておくくらいでないとまずいのだ。
特にアンは普段着がほぼ下着なのだから。

本当は、女性同士一緒に行く約束をしていた。とはいえ、アンとナースとは立場も違う。大所帯の船ともなると、寄港間際には何かとアクシデントが出てくるもので、アンは隊長としての役割や隊の仕事もあって皆ほどすぐには下船できない。先に船を降りていったナースたちの申し訳なさそうな顔を思い出して、まだいるといいな、と考えつつアンは店を目指す。



◇  ◇  ◇



「あ!アン隊長ー!!」
「姐さんたち」

目当ての店まであの角ひとつ、というところで向こう側からやってくる一際華やかな集団に会う。朝船を降りていったナースたちだった。
やっぱり間に合わなかったか。

「待ってたんですよ〜隊長!」
栗色の髪をフワフワさせたナースが残念そうに嘆く。
「今新作のフェアやってましたよ!」
ノベルティ貰えるそうです、とショートヘアのナース。
「私たちもご一緒しましょうか?」
とブロンドの看護士長が誘ってくれたのは有難かったが、彼女たちにも仕事があって時間も限られているんだし。

「いいよ、ありがとう。姐さんたちもまだ寄る所あるんだろ?」
あたしは一人で大丈夫だからさ。そう答えれば、残念そうな表情になる。
みんな優しいなあ。

「帰ったら戦利品の見せっこしましょうね!」
「いいね、楽しみ!」
そう言って別れた。
彼女たちとのやりとりは、数少ない女子同士、他のクルーとのそれとはまた違って楽しい。

角を曲がれば、目的の店はすぐそこで。
アンは腹に力を込め気合いを入れる。
買い物は女の戦いなのだ。

ビキニにショーツ、ホルターネックのブラ。水着もオッケー。
トップスは背中のオヤジの誇りが隠れないような、あきが大きいやつ。
とにかく買う、買う。
ちょっとでもいいなと思ったらカゴに放り込む。

最初びっくりしていた店員には、船乗りだと告げたら納得して一緒にあたし好みのやつを選んでくれた。
あ、そのラインストーンの付いた黒ビキニかわいいな!じゃあ色違いでオレンジも!

お会計は3回に分けて済ませた。
これでいいとレジで精算するたびに、また他も気になって手にとってしまうから。

店員の優しい苦笑とかなりの予算オーバーにいい加減にしろ自分、と思いながらも今度はちょっとアダルトなデザインのコーナーに目が行ってしまう。
ナースの姐さんたちが身に付けてそうな、攻めのイメージのやつ。うう、あっちのもいいなあ。

フラフラと寄っていって眺めているが、さすがに4度目の会計はエグいなあと思い、選ぶ手に迷いが表れてくる。
うんうん悩んでいると、
「こういうのはダメかい」
すぐ近くの一枚を指さされた。

「これ?んー、ヒモのやつはデニムの下で結び目がごろごろして痛いんだよ」
ああそれで、と納得した声が返ってきた。
「だったら結び目を前の方にずらせばいいんじゃないかい」
「あ、そっか!そのテがあったんだ。じゃあヒモのやつももっと買ってみようっと」
「そうしてくれよい。そっちの方が好みだしねい」
そうだったのか、それは知らんかった。

「うん。マルコはピンクとこっちのブルー、どっちが好き?」
「ブルー。そっちの豹柄も見てェな。こっちは上下で」
「んー…そんなに買うと予算オーバーだな」
「それじゃあこっちは買ってやる。だからそのTバックも追加しとけよい」
「やった!マジで!?マルコ、ありがとう!!」

思わぬ追加購入に万歳をして、はた、と気付いた。…マルコ?ん??
私、今マルコと会話してた?あれ??

ようやくこの場にあり得ない声に気が付いて、動きがピタリと止まる。
ゆっくりと振り返ると、この場にあり得ない人がやっぱりいて。
「…マルコ?」
…どうしてここにいんの!?
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