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□不死鳥と天ぷらうどん
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「マルコ、昼そんだけ?」

「よい」
アンの斜め向かい、積み上がった皿をずらしたそこに自分のトレイを置いて、いつもの席に着いた相手の気怠そうな返事にアンは思わず顔を顰める。
「朝も食べてなかったじゃん…」
たしか自室でコーヒーだけ。書類に向かいながら覚めかけたカップをすする背中を、挨拶のために覗いたドアから見た。

「…それなに」
「きつねうどん。欲しいなら頼んで来いよい」
「取るか馬鹿!少なすぎだよマルコ!!おっさんてそんな低エネルギーな生き物なの!?」エコなの!?

ぐっさー。
マルコのとなりで、すでに食後の一服に入っていた同じ年代のリーゼントのおっさんがこっそり悶えた。おっさんという生き物…。若い子は無茶言うわあ…。

「お前と違って燃費はいいよい」
マルコはと言うと、若い娘ならではの残酷さの混じった見当違いの指摘をされても、慣れっこなので気にしない。
もちろんアンもちょっとくらいつれない返事が返ってきても、やっぱり慣れっこだから気にしない。
「そんなだからマルコの火、熱くないんだよ!盛大に燃えるくせにさあ!!」低燃費マルコ!
売り言葉には買い言葉。憎まれ口上等。ついでにあかんベーのおまけ付きだ。
「お前なあ…」

ブハッ

けったいな音があらぬ方向からして、そちらを振り向けばアンの3つ隣、今まで静かに茶をすすっていたはずのイゾウが肩を揺らしニヤニヤとこちらを向いていた。聞いてたのかい。
「くっくっくっ…いいぞアン。もっと言ってやれ、その不健康なおっさんに。このままじゃ早死にしちまうぜってな」
「はやじに?」
いつ死ぬかも分からん海賊やってて早死にもクソも無いだろうに、イゾウはさも不憫そうな様子でアンを煽る。
「そうそう、不死鳥殺すに刃物はいらぬってね」
「そんな…」
わっはっは!
堪えきれずに盛大に笑い出す性格の悪い16番隊隊長を苦々しく横睨みしマルコは嘆息する。いらんこと言いやがって。
「…イゾウ、」
「やだ!」
悪ノリの過ぎるイゾウを止めるべく口を開いたマルコの声に、泣きそうな声が被さる。
視線をアンに戻せば、椅子が倒れるほど勢いよくその場に立ち上がった彼女は本当に泣きそうな顔をしていて驚いた。
「マルコが死んじゃうの、やだ!長生きしてくんないと、あたしが困る!!」
そんなことを真剣に、フォークを握りしめながら言うもんだから、マルコはイゾウどころじゃあなくなってしまった。この娘は…。
アンはというと、『マルコ・早死に』というキーワードにびっくりしすぎてオロオロするばかりだった。
だって。ただでさえすごく年上なのだ。
ハタチのあたしと、今のマルコ。30のあたしと、50前のマルコ。さらにその上…うわあああ!
「おいアン、」
「いやだあああ!ちゃんと飯食えバカマルコ!アホボケカス!!」
「わかったわかった、おいアン、落ち着けよい」
アホボケカスは余計だが、取り乱す馬鹿力娘は手に終えない。とにかく素直に言うとおりにするのが一番手っ取り早い。
「ちゃんとしっかりメシは食うから」
「…ほんと?もう低燃費しない?」
「……よい」
…いい加減、低燃費やエコから離れてくれ。
ようやく納得してストンと席についたアンは、まだ手付かずだった自分の皿に盛られたエビと野菜の天ぷらをマルコの器にのせた。
「はいこれ。あげる」
「ありがとうよい…」
「くっくっく、いいねェ旦那。若ェカミさん持つと色々幸せだねえ」
未だ肩を揺らしながらこちらを見るイゾウを睨み返すが、泣く子も黙る一番隊隊長の殺気混じりの視線もあちらにはちっとも効いちゃいない。
こいつは本当に曲者だ。もう放っておくことにして、表情は苦々しいことこの上ないままで、ようやく箸を取ってのびかけたうどんを掬った。
「…気をつけるよい」



後日、今までずっとのらりくらり断り続けていたナースたちからの健康診断の誘いを、渋々ながらも受ける一番隊隊長の姿があったとかなかったとか。


end!






うちのマルコさんは38才(アンと18才差)くらいがいいかなあ、と思ってできたお話。アラフォーばんざい!

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