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□ヒト神殺シ 〜ヒト神殺シ〜 第0章[ヒト神殺シ達]
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雨が降りしきる空間だというのに、やけに乾いた音が不規則に響く。
石柱や、石の壁、神の怒りに反応し砂塵が舞う。
乾いた音が向かう先には、人であって人ならざる者。
―――ヒト神
己が欲のために神を殺し喰らったヒト。
次々と鳴り止む事のない音に合わせて、一人の男がステップを踏むように動く。
「05...04...03...02...01.....」
静かに囁かれるカウントダウン。
男はニッと笑って血のついた口許を拭った。
そして、静かに言う。
「Are You Ready...?」
堕ちる覚悟は出来てるか?
その直後、ヒト神が弾けたように中心で何かが爆発した。
後には、暖かい雨が降る。
暖かい・・・真っ赤な血の雨が降る。
「っふぅ・・・・・・」
男は真っ赤な血を浴びながら、汗と血で鬱陶しく纏わり付く前髪を後ろへと撫で付けた。薄い唇にタバコをくわえる。
ジッポーを開けると、青々と火が灯った。
「ったく、毎度毎度しぶといな。コイツらも。」
「まだ、本物の神よりマシでしょうが。班長。」
「まぁ、な・・・。」
奥から出て来たのは黒髪に蒼い瞳をした詰め襟の少年だった。
「つーかさ、ソラちゃん。その、班長って呼ぶの止めようっつってんじゃん。刻史さんだって。」
「嫌。」
「じゃ、班長命令で」
「だが断る。」
言うと、男――刻史は不満げな顔をして溜息をついた。
少年は救急セットを開けて刻史に一応の処置を施していく。
「かわいくねーなぁ。俺の班員さんは。」
「何か?」
「べーつにぃ?痛っ!!もっと優しくしろよ!!!」
「俺はかわいくないですからね。我慢してくださいよ。」
(チッ・・・。聞こえてんじゃねーかよ。)
その後も、刻史が痛い痛いと言うのも構わず、消毒をたっぷりと含んだ脱脂綿を押し当ててしていく。
「わざとだろ・・・!!!絶対にわざと痛くしてるだろ・・・!!!」
「はい。俺は貴方が、嫌いですから。」
天音の瞳には映っていた。肉が刔られ、不気味に変色をした傷痕が。刻史がヒト神の子であるながら、ヒト神に反逆した反逆者である証の『十字の傷痕』が。
(俺はヒト神に関する者が嫌いだ。だから・・・ヒト神の子である貴方も嫌いだ。貴方が悪いわけではなくとも、貴方が大嫌いだ。)
天音の眉が、少しばかり怒りに歪んだ。
(でも、そんな事とか言っときながら、敬語を使っている俺の矛盾って、何なんだろう)
「おうおう、そーかよ。」
刻史は、気づいていないフリをしているのか、はたまた本当に気づいてないのか。天音の矛盾に対して何も言わなかった。
「ホンット、かわいくないな、お前は。」
その代わりなのかは知らないけれど、刻史は呆れたような顔をしてそう言った。
「はい、終わりましたよ。」
締めに包帯の上から傷口を軽く叩く。
「痛い!!!」
「これくらい我慢です。てか、なんでヒト神からの攻撃には耐えられてコレには耐えられないんですか・・・」
「煩ぇーなぁ。痛ぇモンは痛ぇんだよ。」
僅かな沈黙は、永久の短縮。
それくらいに、僅かな沈黙が長かった。
「じゃ、下界に帰るか。」
「・・・はい。」
己の血が一つ、脈打った。
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