Short novel

□静かな夜に…
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ふと、目をあけると




カーテンの隙間からこぼれる眩しい光が、朝がきたことを知らせていた




『どうして……私なの…かな』




ベッドの中で今にも風に掻き消されてしまいそうな小さな声で発した言葉



いつもどこかで私が思っていた本当の気持ちだった









昴さんと出逢ったのは、ネオン街の中



その当時私は親の借金に追われる地獄のような日々を送っていた



真面目に働いて返していくには女の私には限界というものがあった



だから夜の街で働くことに抵抗はしなかった



生きていくにはそれが1番の方法だったから






彼は夜の街で遊ぶような人だった



しかし、職業はその世界の真逆ともいえるもので、私なんかが関係を持てるような人ではなかった



だけど彼は私の全てを呑みこんでしまった



初めて会った時、何が彼を動かしたのかはわからない



彼は私の借金を肩代わりすると言って、私を連れ出してしまった



この部屋に私を閉じ込め意志なく抱かれ。

そうして私の全ては彼のものとなった









絶望の淵から私を救ったのは彼



だけど籠の中に閉じ込めているのも彼




彼は私の存在価値を示す唯一の人だけど、私の存在を消してしまう唯一の人でもあるから






だから恐かった





















―――いつか捨てられて自分が消えてしまうのが







「ん…」



ゆっくりと隣で寝ていた昴さんの瞼が開けられる




『ごめんなさい…起こしました……?』



「いや…」





まだ眠たそうな虚ろな目をしている



無理もない。昴さんの仕事は忙しすぎるから



毎晩働いてるのに十分といえる睡眠をとらない体が悲鳴を上げていないか心配にもなる。



『私、ご飯作ってきます』



「まだい…」



布団から身を起こそうとした瞬間、腕をぐいっと引っ張られ再び体がベッドに沈んだ


昴さんに背を向ける形で倒れこんだ私の腰元に長い腕が絡む。




「ここにいろ…」




一つだけ、思ってたことがある



昴さんは私に愛情なんて欠片もないと、そう思ってるけど




こうして一緒に寝てる時、優しさが私を包んでいるようだった


思い違いでも少しだけ暖かい気持ちになれた



だからこの人に安心感を覚えてしまうようになったのかもしれない



『最近、疲れてるんですか…?』




ぎゅっと少しだけ腕に力を入れた昴さんに背中越しで話しかける




「…お前は何も心配しなくていい」



香り、がした。これは香水…。




普段昴さんがつけているのとは違う



毎日一緒にいるんだからそれくらいわかる




じゃあ…これは違う女の人の…。



『うん…』




あぁ、いつからこんな風に感情を殺せるようになったんだろう





哀しいのに涙も流せない





「今日もちゃんと待ってろよ…」








いつだって昴さんは何も教えてくれない









だから私はその夜、鳥籠から飛び出してしまった。

























待っているだけには限界があった

昴さんが私に抱いている感情が何かを知りたくて


少しでも真実に近づきたかった









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