小説
□ひみつきち
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どれくらい泣き続けただろう。いい加減もう涙も枯れた。
痛む体を叱咤し、身を起こす。闇に慣れた目でも自分の手がぼんやりと見えるか見えないかというくらいでこの部屋の様子は窺いようがない。
足を一歩踏み出そうとすると、左の足首が酷く痛んだ。どうやら挫いてしまったようだ。
手探りで足もとを確かめ、足を引きずりつつ壁伝いに歩き出す。扉の取っ手のようなものがないかと壁に手を這わせながら、慎重に部屋の外周を歩いて行く。足元のぐにょぐにょしたものは、クロナが落ちてきたあたりを頂上に、ゆるやかに丘状になっていた。足を踏み外さないように一歩一歩確かめながら進めた足が、やがて固いコンクリートのような床を踏んだ。
歩きやすくなったことに少しほっとしながら、また壁を探る。
この部屋はどのような用途の部屋だったのだろう。
もし出入り口が見つかっても鍵がかかっていたりしようものなら万事休すだな、と嫌な考えが頭を過ったがとりあえず無視をした。
「ん?」
ざらざらとした壁を辿っていた手が何か固い突起に触れた。ドアノブというには大きく、複雑な形状をしている。周囲を探ると、壁とは質感の異なる凹凸があり、同じような突起がいくつもあった。
突起を触ってみる。金属だろうか。武骨で分厚い、かなり丈夫そうな感じだ。引っ張ってみると、かなり重いが僅かに持ち上がった。両手でその部分を掴み、足の痛みを堪えながら力を込めて引っ張ると、キンと小気味のいい音がして金属が外れた。
この突起は留め金のようなものらしい。留め金を全部外したら出入り口が開いたりしないだろうか。考えていても埒が明かない。とにかく行動あるのみだ、とクロナは片っ端からその留め金を外しにかかった。
無心に留め金を外していて、これで十個も外しただろうか。何となく違和感を覚えた。留め金の配置が無秩序で、しかも長身のシュラの手でも届かないような上の方まである。どう考えても扉のような形をしていない。手に触れる壁の凹凸の材質も、よくはわからないが壁らしくない感触で、妙にごわごわしていたり、毛のようだったり。
「……?」
横に移動した足が、何か大きなものにぶつかった。硬く、表面が妙にぬるりとして、撫でるとぼこぼことした浅い凹凸がある。くすぐったがるようにそれが緩慢にうねって、しゃらりという不思議な音がした。
何か、触ってはいけない物に触ってしまった気がする。
嫌な予感に動けなくなったクロナの背中を、冷たい汗が一筋流れていった。
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