小説

□赤い花びら
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 暗い夜道に沿って、薄ぼんやりした光が導のように連なっている。空に開いた白い穴のような空月と、あとは真っ暗な闇。工業地帯の塔が様々な色の光を纏い、夜空を彩っている。それはとても幻想的で非現実的で美しく、クロナはヴェリルに小突かれるまで夢の中にいるかのようにそれに見入っていた。
「ヴェリルはこれからどうするの?」
 二人、お遣いの道中。お人好しだお節介だと文句を垂れていたヴェリルも何だかんだでついてきた。知らない所に行くのならやはり一人より二人の方が心強い。
「うーん……そうだねえ。実のところ、あんまり考えてなかったんだよね。人がいるところを探してただけで、人を見つけてどうしたいのか考えるの忘れてた」
「兵器工場の仲間に入れてもらえば? ニオヴェさんはいい人だよ」
「そうだね、それも一つか」
 二人が向かっているのは、『鬼の角』と呼ばれる第百八十八番塔だ。『鬼』というのは古い伝説の生き物で、頭部に一本ないしは二本の尖った角を持っていたらしい。その塔には高層部に二本の尖塔があって、その下に大きな円形のステンドグラスがふたつあり、それが伝説の『鬼』の顔のように見えることからそういう別称ができた。イオはそこを住まいにしているという。
 距離としては、徒歩で往復するだけなら二時間程度、といったところか。交渉などの時間が必要になるかもしれないが、朝までには余裕で帰れる。
 気になったのはタンタラムのことだ。一応、ここに白い『蝙蝠』のような変な生き物が来たらシュラは『鬼の角』に行ったと伝えてくれるよう、ニオヴェに頼んできた。
「シュラって、見かけによらず好奇心旺盛と言うかお人好しというか、他人のことに首を突っ込みたがる性格なんだね」
そう言って、ヴェリルは呆れたように笑った。
「そう?」
「そうだよ。あと、むやみに感情移入する、というかさ。あんまりそういうことしてると損するよ」
「そうかなあ」
 損、というのは考えていなかった。むしろイオという手がかりになりそうな人が見つかって良かった、と思ったくらいだ。
 ヴェリルがしっかりしているように見えるのは、損得勘定が身に着いているせいもあるのかもしれない、とふと思った。きっとそういう方が要領よく生きられるのだろうけれど、なんだか冷たく感じて寂しいな、とも思う。
「あの人、あのまま生かしておくよりいっそ早く楽にしてあげたほうがあの人にとっては幸せなんじゃないかって、僕なら思っちゃうんだけどね」
 ヴェリルが言う『あの人』のことを思い出して、クロナは立ち直りかけていた気持ちが再び沈んでいくのを感じた。








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