ウル織SS

□私が壊したもの
1ページ/1ページ



貴方は覚えているだろうか。
初めて自分の事を話してくれたことを。


貴方は私の部屋で眠っている事があったね。私、貴方の寝顔を見ていると穏やかな気持ちになれたの。
いつも無表情でいる貴方がとても優しい表情をしていたから。
もちろん、貴方は優しかった。
その優しさが私にはわからなくて、辛かったけれど。


貴方の目はとても綺麗だけど、私を全て見透かしていた。
だから、ちゃんと見るのが怖かったのだと思う…。
貴方を怖いとは思わない。
そう。
私は自分の弱さが怖いんだ。
でも誰だってそうでしょう?


私は貴方に訊いた。
貴方は、如何して人間が嫌いなの?と。
貴方は愉快そうに笑ったね。
初めて貴方の笑顔を見た気がする。
皮肉が入っていたとしても。
貴方は答えた。

「人間は…馬鹿な事ばかりする。お前のようにな。」

お前のようにというのは、仲間の為に自分を犠牲にしたってこと?
それを貴方は愚かだと言うの?
そう聞くと、彼はそうだと言った。

「お前たちの行動全てが、俺には到底理解できない。それに、お前たちは脆く弱い…見てて腹立たしい。」

彼の言葉全てが全ての理のように思えた。
それでも私は、思わず聞いていた。

「辛くないの?」

「…は。」

「誰かと心を通わさないで、ずっと孤独で…殺し合って、それで寂しくは無いの?」

聞いてはならぬ事を聞いてしまったような気がする…。
でも私は辛い。
孤独でいる事が、誰かを傷つけ、傷つけられることが。

「辛い?寂しい?…そんな感情が俺達にあると思うか?」

彼は鼻で笑ったが、真剣だったと思う。

「俺は、不満と思ったことはない。藍染様に使われるこの時がどれだけ…。」

彼は何故か思い留まった様に口を閉じた。
私から外されていた目もまた戻る。

「ウルキオラ…さん?」

「女。お前にとっての幸福とはなんだ?」
「幸福?」

私は戸惑ったが、彼の口からそんな言葉が出るとは思わず、嬉しくなった。

「笑うな。答えろ。」

「…そうだなあ〜。今は、生きているだけで幸せかな。」

「・・・お前は囚われの身だというのに?俺達に逆らうこともできず、自由もないというのに?幸福だと?」


「それでも、生きていたら、いい事もあるかもしれないじゃない?
もちろん、辛い事もいっぱいあるよ。
私は夢があるの。
沢山の夢。
捨てたものもあるけど、私諦めが悪いから。
ね。こうやってさ。
ウルキオラさんと話せるのも好きだし…。
だから幸せってさ。
見えないものなんだよ。」
「見え…ない?」

「うん。幸せだからこそ、見えない。なんか変なこと言ってるかなー?」

私は自分でもわからなくなって、少し気恥ずかしくなってきた。
彼は私を見つめるばかり。
そして彼は目を伏せると。

「話をしてやろう・・・。」





「何もないところに何かが生まれた。
何もないからそいつは何も思わなかった。
何を見ても何も思わない。
何もないからこそ、何もしない。
だが、気が付くとそいつすらいなくなってしまった。
唯一、持っていたものを、そいつは奪われた。何も無いと思っていたのにたった一つあったものを・・・。
それがなくなったとき、そいつに与えられたのは、幸福だった。」

「何もないのに幸せ?」

「・・・そうだ。」

「それは違うよ。」

「・・・。」

「人間だけかもしれない。弱いからこそ、こんな事を言うのかもしれない。
でも、何も無いのは幸せじゃないよ。
人は心を通わせて初めて、何かを得て、それを幸せに変えていくの。」

彼は目を見開いていた。
信じれらないというような顔だった。
いつもは感情を一切読み取れないのに。

「失うことが幸せだと?」

「失う事もあるよ。貴方の言う通り。でもそれだけじゃないの。苦しくて辛くてもそれを乗り越えたらきっと・・・。」

その時、私は彼に押し倒されていた。
私の手首は彼に掴まれて、抵抗も何も出来ない。

「ウル…。」

「何だ・・・?お前の中に何がある?何も見えない・・・。」

彼は自分に言い聞かせているようだった。


「あるよ。貴方の中にも私の中にもちゃんと・・・。」




目に映るものだけが全てじゃない。
目に映らないものこそがとても大切な物。

貴方は感じている?
貴方の心はとても温かいよ。
だから、私は貴方から幸せを貰ったよ。





「ありがとう。ウルキオラ。」

「どうした?織姫。」

「何でもない。ねえ。ウルキオラ。」

「何だ?」

「今、幸福(しあわせ)?」

「・・・ああ。」


優しく笑った彼の顔が大好き。
繋いだ手から溢れる温もりが大好き。
こんな当たり前の幸福は、当たり前じゃない。

私は貴方の幸せを壊した。
でも貴方は言ったよね。
だから、私は何度でも貴方を壊して、幸せにする。


笑って待っていてね。
絶対、迎えに行くから。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ