薄桜鬼〜沖千〜long

□8. 交錯
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二人は氷を食べ終えると、歩いて帰って行った。
歩くと。

「暑い・・・・。千鶴ちゃん。大丈夫か?」

「大丈夫です・・・・。」

横にいる少女を見れば汗だく。
無理もない。
この夏は暑いから。
汗かきな新八は彼女の辛さがわかる。
それにしてもあの沖田が惚れた女。
どんな変わり者かと思えば、頑固で真っ直ぐな可憐な少女。
土方が沖田になにか闘志のようなものを燃やしているのか知らないが、沖田のことはもういい。
もうこんなことはごめんだ。
平助はかわいそうだ。
平助は最初から彼女にひかれていたのだろうから。
叶わない恋だな。
相手が悪い。
沖田はそう簡単に千鶴を離さないだろうから。
土方のことは放っておいて、自分は元の生活に戻ろうと思う。

「何やってんですか?」

声がかかった。
新八は考え事をしていたので反応が遅れた。
だが一瞬で誰かわかっていた。

「総司・・・。」

巡察中の沖田総司。
たしかに会ってもおかしくはない。
計画には千鶴とちゃらちゃらしているところを見せつければいい。
単純な新八だったが考えてみれば。

(こいつに勝てるわけがない・・・。)

もてない新八がこの執着が強い最悪な男に勝てるはずがない。
そう今この男の殺気を感じ思った。
沖田は執着が強すぎる。
それだけで人間を殺せる。
そう仲間でさえ。
そういう男なのだ。

「沖田さん!」

助け舟は千鶴だった。
千鶴に微笑まれた沖田はどこか嬉しそうにしていた。
が、それも続かず。

「どうして君が新八さんといるの?」

低い声で言われた千鶴は沖田の冷たい目を見て、感じて彼の気持ちがわかる。

「ひ、土方さんがな・・・・千鶴ちゃんを連れて・・・氷を食いにいけってな・・・。」

「土方さんが?本当なの?」

千鶴はうなずいてから、沖田の肩を優しくたたき、耳に口を近付けると、囁く。

「心配しないでください。私は沖田さんが大好きですから。」

その声は沖田にしか聞こえず、柄にもなく、沖田は赤面してしまった。
彼女の声が綺麗で。
可愛くて。
嬉しくて。
恋とは本当にすごいものでこんなことで幸せになってしまう。
千鶴はすぐに離れ、笑ってから。

「沖田さん。巡察頑張ってください。」

「うん。」

(す、すごい・・・。)

一瞬で沖田の機嫌が直った。
沖田はだいたい機嫌が悪いときは嫌味を散々言ってきたりするので(土方にとくに。)こんなに彼の機嫌が直るのは見たことがなかった。

「永倉さん。私たちは帰りましょう。」

「お、おう・・・。」

千鶴に腕を掴まれ、去っていくが沖田はきっと睨みつけていただろう・・・と新八は思う。
そして後で散々嫌味を言われたのは言うまでもないだろう。



「沖田さん・・・・。なんでそんなに怒っているんですか。」

「君が新八さんと二人で出かけたからに決まってるじゃないか。」

沖田は帰ってからまた機嫌が悪く、部屋にこもったきりだった。
仕方がないので千鶴が食事をもっていった。
二人はより添って部屋の壁に腰かけていた。

「仕方ないじゃないですか。土方さんが私に休みをくれたんです。御好意には甘えたほうがいいでしょう?」

「君はわかってないんだよ・・・・。」

「?」

(土方さんは僕に千鶴ちゃんと別れさせたいのか・・・。)

千鶴は幹部たちにとって癒しだから。
土方は沖田をこらしめるつもりもかねて千鶴をとりあげるつもりなのだ。

「君はちゃんと危機感もったほうがいいと思う。君は女の子だから。」

「・・・・・・・。」

彼女はよくわからないという顔をして答えなかった。

「私は・・・・・。沖田さんが心配なんですよ。」

「え?」

「でも私は知ってます。沖田さんは心配されたくない。そして私は心配することしかできない。」

「千鶴ちゃん。」

「父様を探しに来て・・・。新選組に居候してからもう一年以上たってます。
いろいろなことがありました。そして今・・・。沖田さんをこうして思えるのも、このぬくもりも・・・。」

千鶴は手を握る。
その手はひどく冷たい。
どうしてだろう。

「私は・・・・あなたの役には立たない。思うだけでは何もできない。わかってます。知ってます。それでも私は思い続けてます。
一秒でも沖田さんのこと・・・。忘れない。」

沖田は声がでなかった。
口を小さく開けて千鶴を見つめる。
また泣いた。

「私を殺してもいい。いらないなら切り捨てて・・・・。けれど私はあなたを裏切らない。あなたから離れない。」

千鶴は涙が自然にでる。
けれどその涙はいつもより辛くない。
沖田は抱きしめる。
無意識だった。

「君にこれ以上かっこいいこと言わせられないな。・・・・・僕も君を同じ気持ちだよ。でも僕は誓う。君を・・・・殺したりしない・・。」

千鶴は信じられない。
だって・・・。
でも今は信じられる。

「私は沖田さんが大好きだから。だから心配しないでくださいね。」

(心配するのは私の役目だから・・・。)

その言葉は口付けによって言うことができない。


守りたい。
守りたい。
こんな血に染まった手でも。
それが・・・。今の願い。




愛してる。
愛してる。
もう僕の命が消えていくのは知っている。
けれどこの言葉は伝えなきゃ。
死んだらもう君に逢えない。
君を悲しませる。
そんなの嫌だ。
僕は願う。
生きて生きて彼女に触れたいと。
彼女を傷つける全てのものから守りたいと。
どうしてこんなにも胸が熱いんだろう。
ああ。そうか。
もう・・・・・。
わかってるんだ・・・・。




「土方さん。」

沖田は土方の部屋の前で土方の名を呼ぶ。

「入れ。」

土方は入ってきた沖田を見ると顔色を変えず座れという。
沖田は座ると土方に向き合う。
そして頭を下げる。

「もう嫌がらせはやめてください。」

土方は心底驚く。
彼はまた謝った。
真剣だ。
真面目な顔をしている沖田は重く、子供じゃない。
武士そのもの。

「嫌がらせ?俺が何かしたか?」

「とぼけないでください。千鶴ちゃんのことです。」

「ああ?」

「千鶴ちゃんは今日、新八さんと出かけました。僕の気持ちはわかりますよね?僕は今彼女が好きすぎておかしいんです。だから仲間でも斬るかもしれません。」

「私闘は・・・。」

「わかってます。だからやめてくださいとお願いしているんです。」

土方は押し黙った。

「僕はもう沖田総司であって沖田総司ではないと思うんです。」

「どういうことだ?」

沖田は切ない顔をして話し始める。

「以前の僕は近藤さんのため・・・・新選組のために剣を振るってきました。
ええ。殺しまくって戦闘狂と呼ばれるくらいね。でも今はそれだけじゃだめなんです。」

土方は真っ直ぐ沖田を見据えるだけで何も言わない。

「近藤さんのためだけじゃもう剣が振るえない。おかしいですよね。この僕が。」

沖田はおかしそうに苦笑する。

「千鶴ちゃんを守りたいと思うんです。そして血に染まったこの手で抱きしめたくないと思う。矛盾してて・・・。おかしい。
でも近藤さんのためなら彼女を殺せてしまうんです。」

「それは・・・。」

「そして・・・このままじゃ千鶴ちゃんのために全て殺せる気がする・・・。」

「!」

「あはは。もう自分でも怖くて不安なんですよ。あれ・・・。おかしいなぁ。なんであなたに話してるのかな。こんなとこにきて…。」

沖田は立ち上がる。

「近藤さんに話しました。千鶴ちゃんのこと。そしたらすごい喜んでくれて。天然理心流は安心だって。笑って言うんですよ?」

「・・・。」

「嬉しいです。嬉しかった。けれどもう戻れないんだ。背負うものは増えるんだ。
僕はそんなに器用な人間じゃないんですよ。」

「お前は・・・・そうだな。めちゃくちゃやってたな。今もだが。そう簡単に変わらねえよ。お前はお前の意思がちゃんとある。
今、考えてもな。答えなんか見つからない。答えは自然に見つかるんだ。だからそんな泣きそうな顔すんな。」

「してませんよ。失礼な。」

「でだ。お前の気持ちはわかったよ。俺の計画はお前らがあんまりちゃらちゃらしてるからだな・・・。」

「はっ。そんなことで・・・。とても吉原でもてもての土方さんの言葉とは思えませんね。
そんなことでこんなことしたんですか?皆暇ですね。」

「ふん。まぁ思ったよりお前が早く来たんでな。平助と新八だけで終わりかよ。」

「あの二人には僕がいいことしてあげますから土方さんは気にしないでくださいね。」

絶対良いことじゃない。
土方は平助と新八に心の中で謝った。
土方は薄く笑うと沖田を見直す。
餓鬼の頃から生意気でどうしようもなくて・・・・けど今の言葉は大人になったんだろう。
彼の口からこんな真剣な言葉がでるとは思わなかった。
土方は嬉しかった。

「あーあ。一瞬で終わったが・・・いいか。俺の前でちゃらちゃらすんなよ。」

「えー。せっかく面白いのになぁ。仕方がない。二人でこっそり愛を育むことにします。」

沖田はくすくす笑うと襖をあける。

「じゃ。おやすみなさい・・・・・。」

最後に変な咳がでてしまった。
だが土方には聞こえなかった。



時は残酷・・・だな。
そう沖田は目を伏せて思うのだった。
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