薄桜鬼〜沖千〜long

□7. 血と瞳
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慶応元年 閏五月


山南が切腹し、西本願寺に屯所を移した新選組は今まで通りの生活を送っていた。
千鶴は最初は違う屯所になって気が気でなかったが落ち着いてきた。
それでも山南がいなくなった痛みはそう簡単にとれない。
今でも彼の顔を思うと胸が締め付けられた。
西本願寺は大きく、隊士たちも十分休めるようで何も文句はなかった。
それでも山南が出て行った原因にあたる可能性がある移転の話には気が引けた。
沖田は何も言わなかった。
山南がどうして出て行ったのかと土方に聞かれたことがあったが何も言わない。
千鶴は自分がよそ者だと自覚していた。
だから彼の死を悲しむだけで追求はしなかった。
教えてあげればいいのは明里にだろう。
明里はまだ山南の死に納得がいっていないだろうから。
人は欲深い。
死ぬべき人間でさえ恋しく思ってしまう。
何故、こんなにも矛盾しているのだろう・・・・。
千鶴はそう一人思った。






ある日、その日は平助と共に巡察に来ていた。彼は元気がない。
千鶴の父の手がかりがつかめなかったことをすまなさそうに言った。
京の町を歩いていると、浪士が目に付いたり、どきつい商売をしていたり・・・・。
新選組の前でも堂々とガンを飛ばして来たり・・・・。
巡察も気が抜けない。
それと同じに、綺麗な女物の着物や、簪など千鶴の年頃なら誰もが身に着けているものが目に見えた。

「千鶴?」

ぼーっとしていたらしく平助が心配そうに顔を覗き込んできた。

「え?あっ。はい!」

千鶴はすぐに顔を上げると赤くなりながら平助を見た。
言葉は出ない。
平助は首をかしげながら、大声で叫んだ。

「おーい。総司〜!そっちはどうだった?」

沖田総司。
今、千鶴の思い人。
二人は隙を見ては一緒にいた。
まだ口付けで終わっているが沖田との会話は楽しかった。
けれど彼はあまり元気ではないように見えた。それは幹部のほとんどがそうなので(永倉と原田は酒を飲みに行っているが。)

「千鶴ちゃん?」

沖田は意地悪な笑みを浮かべていた。

「これが欲しいの?」

千鶴の近くにあった簪。
それを沖田は指差した。

「そ、そんなことは・・!」

「ふーん。」

沖田はまだ意地悪に笑っている。
その時、沖田は咳をした。
それはそう簡単に止まるものではなかった。
今思えば、その時もっと沖田を心配すればよかった。
沖田は人の前では決して弱みをみせないから、皆はうまいこと騙されてしまう。
彼は千鶴に心配をしてほしくないのか。
あるいは・・・。
そうして咳が止まったころ・・・・・・。
三人の浪士が一人の女を取り囲んでいた。
それを沖田は颯爽と助けた。
これが南雲薫との出会いだった。
千鶴の宿命ともいうべき出会いだった・・・・。



「本当のこといいなよ。欲しかったんでしょ。」

「だから別にいらないですって!」

沖田は昼間の簪のことをうるさいほどしつこく聞いてきた。
千鶴は少し気が悪かった。
沖田の顔はいいことを考えているようには全然みえない。

「怒ってる?」

千鶴は唇をとがらせて少しふくれた。
そんな千鶴を沖田は抱きしめた。

「可愛い〜。千鶴ちゃん可愛い〜。」

「お、沖田さん!」

ぎゅっと抱きしめられ、千鶴は息ができなかった。
その時、また沖田はほんの少しの咳をした後、沖田は目を変えて千鶴を見据えた。

「さ。千鶴ちゃん。もうすぐ出かけるんだから準備しなくちゃ。」

今夜、新選組は将軍が上洛するので二条城の警備を任されていた。
これは大変名誉なことだった。
そして沖田と平助は参加しない。
沖田は土方が過保護だと言っていたが諦めていた。

「はい。あの、いってきます!」

千鶴は首に横を振って周りを何度も見まわした。
そしてゆっくりと沖田の肩を掴むと背伸びをした。
沖田は何をされるのかわかったようで嬉しそうに待っていた。
そして。
「えー?口じゃないの〜?」

「そ、そんな恥ずかしくてできませんよ!!」

口にされると思っていた沖田はふてくされたように言った。
そして沖田は千鶴の唇に一瞬の口づけをすると。

「いってらっしゃい。」

そう笑って去って行った。




その夜、二条城の前は警備で固められていた。誰も入ることは不可能だろう。
そう思ったのが間違いだった。
風間千景率いる鬼たち。
彼らは異質な雰囲気を漂わせ、千鶴に笑む。
千鶴は自分の境遇を知る。
彼らは千鶴を同胞と言った。
確かに、昔から怪我が速く治ったり・・・。
普通の子供とは違った。
土方たち、幹部は千鶴を守ってくれた。
千鶴は嬉しかった。
しかし自分は無力だった。
自分は守られる存在でしかない。
それが情けなくて・・。
悔しかった。
山崎に連れられ、沖田のところへ行ったとき、彼は悔しそうに唇を噛んでいた。
そして彼は言った。

「君は大丈夫。僕が絶対に守ってみせるよ。」

彼の笑顔に千鶴は救われた。
彼は自分を好いてくれている。
それが嬉しかった。

「私は戦いたいんです。私は・・・。」

沖田は千鶴の頭に手をポンとのせる。

「君は強いよ。だから心配しないで。」

昔の沖田との会話でこんな言葉は耳にすることはなかった。
最初から千鶴に気さくに話しかけ、笑みはたやさなかった彼だが今は千鶴にだけ特別な笑みを与えてくれる。
千鶴が安心したその時。

「ゴホッ・・・ゴホッ・・・・・・。」

沖田の咳が響く。

「沖田さん!!」

千鶴が背中をさすると彼はうっとうしそうに千鶴を見た。
それにゾクリときた。

「大丈夫・・・だから・・・・。」

「で、でも!平助君を呼んで・・・。」

「駄目だよ!そんなことしたら斬っちゃうから・・・。」

彼は千鶴を好きと言いながら斬るというのか。千鶴には何もわからなかった。
彼が好きなのに彼の思いがわからない。
彼は内に何か隠している。
彼が打ち明けてくれる日はくるのだろうか。
沖田はやるせないような顔をしている。
最近の彼は・・・・・。
どこかに行ってしまいそうで。
とても恐かった。





「新選組・・・・・。あれが千鶴のお守り役か。」

風間千景。
西の鬼頭領。
その血は誇り高き鬼。
身体能力も頭脳も人間とは違う。
風間は面白そうに笑った。

「新選組は浪士の集まり。そう簡単に彼女を受け渡すでしょうか。」

天霧が横から口をはさんだ。

「心配ない。あんな田舎侍の集まり、すぐに潰れる。」

風間が言ったことは間違いはない。けれどそう簡単に人は決まらない。
鬼といえど運命は絶対に決めることなどできはしない。
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