薄桜鬼〜沖千〜long

□4.出会い
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その日、僕は君と出会った。




文久三年、十二月某日。
その日、ある隊士が屯所から抜け出した。
その隊士は血に狂った羅刹というものだった。


「ちっ。あいつら・・・いねぇ。追いかけるぞ。総司、斎藤。」

土方は不機嫌に言った。
沖田は微笑んで羽織を着ながら言った。

「土方さんに言われなくても行きますよ。今日は僕らが夜の巡察だし。ねぇ?斎藤君。」

「・・・俺は副長の命令に従う。総司、あまりはしゃぐな。行きましょう。土方さん。」

斎藤はいつもの調子で言った。






そしてその夜。
彼らは不思議な出会いをした。
過酷な運命を背負っている少女。
そして沖田総司を変えた少女と。







彼女を屯所に運んでおろすと彼女は苦しそうには眠っていなかった。
すやすやという寝息が沖田の耳に聞こえる。




「一様縛っておけ。抜け出されたら困るからな。」

土方はそう言って部屋から去って行った。
残された沖田は彼女の顔をのぞきこんだ。

「・・・・・。」

眠った顔を見るとやはり女の子だった。何故男装をしているのか。

「気になるなぁ。」

沖田はニコリと微笑む。

「沖田君。」

「あ。源さん。」

井上源三郎。
試衛館の頃からの付き合いの長い人のいい人物だ。

「トシさんから報告をうけた。その子があれを見たんだね。」

「ええ。土方さんは心配性だから。別に縛ることないのに。」

「でも抜け出されて逃げられたりしたら大変だ。」

井上は少し笑いながら少女を縛っていく。

「大丈夫ですよ。僕が逃すはずありません。」

沖田の笑顔をやや苦笑しながら井上は見たのだった。











そして翌日。
彼女は雪村千鶴と言った。
なんでもあの羅刹の薬を作った雪村綱道の娘だという。
これは運命的なのだろうか
。彼女の縛られているものは・・・。
僕が思っているよりずっと悲しいものだろう。ともあれ彼女はしばらく屯所におくことになった。
綱道さんは行方不明になっていたからだ。
彼女は男装しなければならなくて大変な暮らしが始まった。
その時の僕は彼女のことなど・・・・。
彼女の気持ちなど何も考えなかった。
ただ・・・楽しんだだけだった。


君との時間を。







「千鶴ちゃん。」

「お、沖田さん!」

千鶴は部屋の中でじっとしていた。
彼女がきて十日目の朝。
彼女の朝飯を彼女の部屋に持っていた。

「おはよう。」

「お、おはようございます!」

何故か元気な彼女に沖田は微笑んだ。
そしてからかう。

「何?その元気。まさか何か変なこと思いついたとか?あははは。駄目だよ。僕に隠れて・・。」

「何も企んでません!やめてください!」

彼女は涙目になって訴える。

「冗談だよ。冗談。でも妙なことしたら殺すから。」

「・・・・・。」

彼女は何も言えなくなるが沖田は気にせず部屋に入り込み座り込んだ。

「はい。食べてね。」

「あ、ありがとうございます・・・でも・・・。」

「ああ。今日はみんな出払っててね、幹部は集まらないんだ。みんな仕事で。」

「そ、そうなんですか・・・。」

彼女は少し残念そうな顔をする。

「大丈夫だよ。千鶴ちゃん。僕が君の食べ終わるまで見ていてあげるから。」

「え!?」

「当たり前じゃない。君が全部食べないと僕が怒られるのさ。」

彼女は信じられないような顔をし口をパクパクさせている。

「早く食べないと冷めちゃうよ?」

「は、はい!い、いただきます!!」

彼女はテンパったようで一気にご飯を食べてむせだした。

「あはははは!!」

沖田は涙目になりながら笑った。

「そ、そんなに・・笑うことないじゃないですか!」

「ごめんごめん。あんまり君が可愛くて。」

「え?」

「でも君はここでは男の子。頑張って男らしくしないとね。」

沖田は千鶴の頭をなでてやる。
千鶴は少し笑った。



「全部食べれたねー。えらいえらい。」

沖田は小さな女の子をあやすように言う。

「お、沖田さんがいたから食べにくかったです・・・。」

「えー?そんなぁ。ひどいなぁ。」

沖田は悲しそうなそぶりをする。

「ご、ごめんなさい・・。」

千鶴は頭を下げて謝った。
沖田は笑顔でいいよと言う。

「千鶴ちゃんは本当に礼儀正しいな。この屯所に千鶴ちゃんほどいい子はいないよ。」

「そんな・・・。」

「じゃ。また後で。」

沖田は襖を閉めた。
そう、彼女はまた誰とも話さない日々を送る。孤独の日々を。







それは四月の中旬のこと。

「はぁ・・・。」

千鶴は何もできない屯所で空虚な日々を送っていた。
食事は幹部の人たちと食べていたがそれ以外は部屋で過ごした。
厠に行くにもほかの隊士の目があったりでストレスが溜まりっぱなしだ。
幹部も仕事で忙しく滅多に部屋に訪れないが彼は意外な日に来たりする。
平助や永倉、原田などはよく話してくれたり励ましてくれたりしてくれた。
斎藤はあまり話さなかったが真面目な人などだとわかっていたから千鶴はよく思っていた。
土方は副長ということで大変なのだろうか食事の席にもあまり見えない。

そして彼だけは楽しそうに千鶴と話す。


「千鶴ちゃん。」

「沖田さん。どうしたんですか?」

千鶴の顔は明るくなる。

「これ。あげる。」

「これは・・・。」

「折り紙。子供たちと一緒に折っていたんだけど余っちゃって。だから暇つぶしに。」

十枚くらいの折り紙を千鶴は大切そうに胸にあてた。

「沖田さん・・・ありがとうございます。」

千鶴は笑顔で礼を言った。

「どういたしまして。そうだ。千鶴ちゃん。せっかくだから一緒に折ろうよ。夕飯まで。」

「え?いいんですか?」

「うん。僕の昼の巡察は終わったしね。ほかの仕事は優秀な隊士がやってくれるだろうし。稽古は新八さんと斎藤君が見てくれるしね。」

千鶴は笑顔になって折り紙を沖田に渡した。

「へへ。」

「嬉しそうだね。千鶴ちゃん。」

「うれしいです。ありがとうございます。沖田さん!」

沖田は一瞬真顔になりふっと笑みをもらした。
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