薄桜鬼〜沖千〜long

□2.序章
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新見錦(にいみにしき)。
近藤、芹沢と共に浪士組の頭。
芹沢が力をのばしてからは副長に降格する。
水戸藩出身で芹沢と仲がいいのだろうが近藤、芹沢にも手がおえない人間だったそうだ。


それは九月に入ったころ。
その時がきた。

「沖田。」

沖田は朝、目覚め、朝食を食べるべく広間に向かっていたところ、芹沢に声をかけられた。

「おはようございます。芹沢さん。」

沖田はいつもと変わりない笑みを浮かべあいさつした。

(酒臭い・・・。)

内心では鼻が気色悪くなったが。

「沖田、今夜、島原に行くのだがお前も来ないか。」

沖田はすぐに答えた。

「残念ですが遠慮します。土方さんに仕事を頼まれていますので。(誰が貴様などと行くか。猿野郎。)」

心の声は沖田の脳内に響く。
芹沢は妙な顔もせずそうかと呟いた。

「土方も人使いが荒い。その上、付き合いも悪いと見える。あれだけの顔をもっていながらな。何かあればわしに言え。沖田。」

「はい。ありがとうございます。」

沖田は軽く頭を下げると芹沢の横を通りすぎた。








「総司。」

「斎藤君。」

斎藤一。
昔から試衛館道場に出入りし、浪士組結成時に入隊。
なじみの顔とあって近藤は斎藤を歓迎した。
斎藤は難しい顔をしながら沖田に近づき耳打ちした。

「あの話は本当か。」

「あの話って?ああ。あれのこと。本当だよ。」

斎藤の顔を見ながら沖田は芹沢暗殺のことだと察する。

「土方さんは俺には頼まなかった。」

「そうなの。じゃ君は余計な首をつっこまないほうがいいよ。大人しくしてなよ。」

斎藤は目をそらし残念そうな顔をする。

「失敗したときは・・・・。」

「大丈夫だって。斎藤君。」

「総司・・・。」

「僕が絶対成功させる。」

沖田は自信に満ちた顔で言い切った。




九月十二日。夜。

芹沢と新見は通いつめている島原の吉田屋で妓女が肌をさらさなかったことから芹沢が立腹し、吉田屋の店主に店をつぶすと脅し、お鹿という芸妓と店主に暴行を加えるという事件を起こした。





「芹沢が暴行だと?」

土方は酔いつぶれてかえってきた新見と芹沢を見て吐き捨てるように言った。

「みたいです。ねぇ?左之さん。」

「ああ。土方さんが頼んで俺たちに吉田屋まで迎えに行かせただろ。そしたら吉田屋の店主と芸妓がボコボコでよ・・・。聞いたら芹沢にやられたとかで。」

原田は悔しそうに言った。
原田は女性にはどんなことがあっても手をあげなかった。
それに聞けば芹沢がすべて悪いのだ。許せるはずがない。

「六月の力士の件といい、角屋の件とい・・・滅茶苦茶ですね。」

沖田はふっと笑みを漏らした。

「笑いごとじゃねぇよ・・・・近藤さんとこ行くぞ。」

土方は足早に去っていく。
原田と沖田は目を厳しくして土方の後をついて行った。



近藤の部屋にはすでに山南が同席し暗い表情をして座っていた。

「遅かったですね。皆さん。」

山南は微笑んで言った。

「山南さん・・・あんたもう知っていたのか。」

土方が座りながら言った。

「ええ。だいたい見当はつきますからね。あの二人の酒癖の悪さは以上ですし。」

「トシ。芹沢が吉田屋に暴行を加えたのは本当なんだな。」

近藤が土方に聞いた。

「ああ。」

横の沖田と原田に目を向けながら土方は頷く。二人もそれに頷いた。

「考えたんだが新見を消すにはいいと思うんだが。」

「どういことです?」

沖田は芹沢と一緒に新見を殺すと思っていたので近藤に聞いた。

「吉田屋の看板芸妓を傷つけたとあればあちらも黙っていまい。この件が公になればせっかくの新選組も浪士組に戻るだろう。となれば吉田屋に謝罪し、それなりの落とし前はつけなければならないだろう。」

「なるほど新見の切腹ですか。それはいいや。」

あははと沖田は笑いだした。

「俺もいい案だと思うぜ。芹沢が死なねぇのは気に入らねぇがな。」

原田は怒りをこめて言った。

「わかった。明日、新見に問いただす。もし芹沢がこちらの要求に反対しても俺が言葉で丸め込んでやる。いいな。」

土方の声にその場の全員が頷いた。







翌日。
土方たちは昨晩の暴行の件を新見に問いただし、芹沢が反対するも土方の脅し文句で芹沢は頷く。
そして九月十三日。
島原の吉田屋にて新見錦は切腹をよぎなくされたのであった。
 

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