薄桜鬼〜沖千〜long

□1.誠を掲げよ
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それは壬生浪士組が新選組になった頃の話である。



沖田総司はその日、夕刻時にも関わらず、壬生寺で子供たちと遊んでいた。
子供たちの嬉しそうな声があたりに響く。
沖田は嬉しそうに笑って子供たちを抱き上げる。
そんなとき、一つの黒い影が現れた。

「総司!」

「あれ?土方さん?」

現れた男は土方歳三。
のちに新選組副長にして鬼の副長として隊士たちに恐れられた男だ。

「迎えに来るなんてどうしたんです?」

「てめーが遅せぇからだろ!ほら、てめーらも早く帰れ。」

土方が子供たちを睨んで言うと子供たちは怯えはじめた。
沖田は子供たちをなでて帰らせると土方を睨んだ。

「で。なんなんです。土方さんが迎えに来るなんて気味が悪いです。」

「うるせぇ。大事な話がある。酒屋によるぞ。」

「・・・いいんですか?芹沢や新見にどやされるんじゃないですか?」

二人の人物の名に土方は目を細めた。

「心配ねぇ。あいつらは出払ってる。」

沖田は土方の反応にまさかとつぶやいた。

「まさか・・・・。消すんですか。」

土方は何も言わず頷いた。
沖田は薄く笑ってそれきり何も言わなかった。




日が暮れたころ。
二人は京のある酒屋に入った。
こじんまりした店の中に沖田のよく知る人物が座っていた。
沖田はいつものように笑って挨拶した。

「こんばんは。左之さん。山南さん。」

「おう。総司!」

「こんばんは。沖田君。」

二人もいつものように沖田にあいさつした。
いつもと違うのは土方だった。
いつもより機嫌が悪い土方はいつもより目を細め、表情が硬い。

こんなところじゃ筒抜けじゃないですか?」

「心配するな。今日は客が多い。俺たちの小声の声なんて聞こえねぇし。屯所では芹沢派がごろごろいるしな。尾行も問題ない。」

土方は酒を飲みほし言った。

「近藤さんは同意してるんですか?」

「ああ。俺が言い出したことだが近藤さんも我慢の限界なんだろうな。・・・実行は俺たちがする。」

「わかりました...。でもどうするんです?僕たちが殺ったことがバレたらまずいでしょう。局長法度なんてこっちが作ったのに破るのは問題ですよね。」

「ああ。あいつはよく島原に入り浸ってる。酒癖も悪い。そこをつく。」

沖田は土方を見る。

「女をつかって・・・酒に酔ったところを狙う。殺ったのは長州の連中だということにする。」

「なるほど。わかりました。で。いつですか?」

「わからねぇが時が来たらだ。覚悟しとけ。」

三人はうなずいてそれから他と変わらぬように酒を楽しんだ。







もともと浪士組は試衛館派、近藤派と水戸藩、芹沢派とで分かれていた。
大半は芹沢派で、現在の局長は芹沢。
新見というのは副長にあたっている。
浪士組から新選組となった今では近藤の力はないといえる。
しかし、芹沢は酒乱で女癖も悪かったため数々の問題を起こしていた。
沖田は当然試衛館派、近藤派だったので今回の暗殺について覚悟を決めていた。
芹沢や新見のことは嫌いだった沖田は日頃殺してきた殺意を湧きだたせる。

縁側で星を見ていた沖田は独りニヤリと笑った。

「やっと近藤さんが・・・。」

局長になれる。
そうつぶやいた。
芹沢暗殺までもう一月もなかった。
 

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