めくらの夜にも星は降る

□♯01
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ボーっと、呆ける顔がうっすらと対面する窓ガラスに映る。

平々凡々の少女の顔だ。膝にある旅行バック以外を除けば、何一つ不自然な点などない極々『普通』の少女。

だが、その少女の隣に映る青年は『普通』ではなかった。

青紫の髪に、物憂いな美貌。どこぞの有名人か、と思われよう眉目秀麗の青年だ。

少女は溜め息を吐きもう一度、電車の対面となっている窓ガラスに目をやる。
そして、二回目の溜め息を吐いた。
―――窓ガラスに映る、自分の肩に寄りかかって熟睡している美貌の青年に対して。




 どうしようとしか思えない。この状況で。

 この、私に寄りかかってすやすやと熟睡している人とは一切の関係を持たない赤の他人。ただ、三駅前に彼が電車に乗ってきて私の隣に座っただけの関係。
 隣に座って、その後、彼がものの見事に熟睡を果たしたワケ。
本当にそれだけの関係だ。
 ………いや、もしかしたら彼の顔は見たことあるかも知れない。

 視界にちらちらと映る青紫の髪。対面する窓ガラスにうっすらと映る端麗な顔立ち。
アイドル、だろうか。おそらく。確か、名前は――――

ブゥーン、ブゥーン、ブゥーン。
ブゥーン、ブゥーン、ブゥーン。

「!」

 突然、唸るようにバイブ音を上げたのだ。

 今この車内にいるのは私と熟睡する彼とサラリーマン数人。まあ、今が夜遅くの時刻であるから仕方あるまい。
 そして、私の近くにいるのは何故か人の肩で熟睡している彼一人。
 故に、このバイブ音の正体は彼のケータイだろう。

ブゥーン。ブゥーン。ブゥーン。
ブゥーン。ブゥーン。ブゥーン。

 ツーコールのバイブ音が、真夜中の車内に鳴り響く。その音は、鳴り止まぬこともなくまだ続く。
 やがて、しきりに鳴っていたバイブ音は止まった。
 …………………………。しんっと、静かになったはなったがまた、

ブゥーン。ブゥーン。ブゥーン。
ブゥーン。ブゥーン。ブゥーン。


―――鳴り始めたのだ。


「………」

 チラッと、隣の彼を見るが一向に気づく気配が見当たらない。って言うか、まず起きる気配がないのだから何一つ始まることなどだろう。
 かくもこうも、バイブ音は悲しくも鳴り続けている。

「………」

 もう一度、隣で熟睡する青年を見返し…………私は意を決して彼のポケットを探った。

ブゥーン。ブゥーン。ブゥーン。
ブゥーン。ブゥーン。ブゥーン。

 まだバイブが鳴っているから、ケータイの位置はすぐに分かった。それに、ちょうど私が座っている側のポケットに入っていたから取りやすかったのもある。
 スマートホン使い方など分からないと思ったが、なんとなくの調子で着信画面が開いた。ああ、良かった。

『トキヤ! 今、どこにいるの!?』

 開口一番に、まず大声を出さないで欲しいものだ。こちらは、大声を出される用意も準備もなにもしていない。
 やれやれと、思いながらも一旦離したがまた電話を耳元に戻す。

「あの、すいません。これの持ち主のご友人さんですか?」

『……あ、はい、そうですけど』

「持ち主さんが、今、電車でかなり熟睡しているので引き取って欲しいのですが」

『分かりました………って、ええっ!? トキヤが、熟睡しているのですかっ!』

 だから、大声を突然出さないでくれ! ここは、電車だ。マナーを守って。
 耳がキーンとする。頭をこんこんと叩き、またもや耳元に戻す。

「あの、ですから―――」 『今すぐ行きます。どこにいますかっ!』

 相手はかなり興奮しているようで、電話越しで拾える音がそれを物語っている。
 なにをそんなに慌てているのだ。それは分からないが、隣の――トキヤと呼ばれる彼が寝ていることにそんなにも慌てることがあるだろう。おそらく。
 ‐‐‐なんか、厄介事に巻きこまれた予感がするのは気のせいかな? いいや、気のせいであって欲しいよ。
 隣ですやすやと安らかに眠る彼をちらりと見て、私は電話越しで慌てているであろう相手に次に止まる駅の名前を告げた。
 

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