『いった...ッ!!!』






「と、悪ィ...」






高校2年の昼休み、私はお昼を購入しようとして人ごみの中をかき分けながら購買へと足を運んだ。しかし突然髪の毛が引っ張られる感覚と髪の毛が引っ張られたせいで頭皮が痛んで声を上げた。瞬間、後ろから知らない声が聞こえて私は声のした方へと視線を移す。






「あ、」





『なに』




まるで知り合いにでもあったみたいにオールバックの男子が声を出して、私は眉間にシワを寄せた。だれ、知らない子?年下?年上?なんて頭で考えたけど、その男子から離れようとした瞬間にまた髪の毛が引っ張られる感覚がして、私は『なによ、もう!』と人混みの中で再び声を上げる。そんな私の両肩を掴んで、後ろにいた男子が人混みから抜け出すみたいに私を誘導していく。(ちょ、ちょっと...)






「すいません。学ランのボタンに髪の毛絡まったみたいで」





『え?本当?』




「今取るからそのまま、」





オールバックな髪型の割には礼儀正しいじゃない。なんて思いながら背中越しに聞こえた声に思わず私は髪の毛をそのまま千切られちゃうんじゃないかって考えて、ポケットにあった裁縫セットのハサミを背後の男子に手渡す。『髪の毛切るならこれ使って』男子はそう言った私のハサミを受け取らず少し黙って「切るならこっちだろ」なんて言ったと思ったら、背後からプチッて音が聞こえた。え?ハサミ出したのに手でちぎったの?もう、最悪。なんて考えながら私は引っ張られる感覚が無くなったのを確認して後ろを振り向く。






『ちょっと、髪の毛...』





「ん?」





『あ、』





振り向いて視界に入った男子の手には学ランのボタンが掴まれていて、髪の毛じゃなくてボタン千切ったんだ。ってことに気づく。本当は少しも髪の毛を切りたくなかった私はその光景を見てホッとしたのがわかった。





『髪の毛切らないでくれてありがとう。ボタン、ごめんね』





そう呟いた私に男子が「じゃあ一個お願いしていい?」なんて言って私の手にボタンを渡してきて、私は手にあるボタンに視線を移してから、なんで渡されたのか分からずに頭にはてなが浮かぶ。その後すぐに男子に視線を移すと、「俺のボタン直してよ」なんて言って少し照れたみたいに笑った。






『全然いいけど、ご飯食べた後に縫うから上着貸して。あと学年とクラス教えてよ。届けに行くから」





坦々と私が言った後、男子は少し驚いたような顔をしたけど「この後俺の前で直してよ」なんて言って私の腕を掴んだ。え?なに、なんで?なんで目の前で縫うの?なんて疑問に思ったのも束の間、男子が掴んだ腕を引いて、どこかの空き教室に私を連れ込む。あれ、これ大丈夫か?私、ボコボコにされるやつじゃない?なんでふと思ったけど、男子が空き教室の扉をパタンとしめて、学ランを脱いで笑う。あれ、違う意味でやばくない?名前も知らない男子と2人っきりで、なんか脱いでるし、とかなんとか頭で妄想していたら私の手に学ランが手渡される。






「よろしく」





『え?あ、うん...すぐ終わると思うから、』





馬鹿な考えを拭って言った私は空いた席に座って、その男子は私の目の前の席にドカッと座って私の方を向いた。そんなに早く学ラン着たいときなんかある?とかなんとか考えてポケットの裁縫セットを取り出して学ランのボタンを縫い付けていく。男子は私の行動をまじまじと見ながら「へぇ、上手いもんだな」なんて言って机に肘をついた手で顔を支えた。






『一応手芸部だから...』





「そんな部活あったの知らなかった」




『文化部に興味なさそうだし、手芸部って地味だから』




「はは、そうそう。文化部に全然興味はないけど」






「あんたには興味ある」なんて私を指差してニヤッと笑う男子にドキッとした。『指差さないでください』なんて言えば「ごめんごめん」なんて言ってまた笑って学ランの内側に入っている刺繍を指差して「俺は水戸洋平。あんたは?」って私の顔を覗き込んだ。






『ちょ、その...今針使ってて危ないから』





「うん」





『後で、言う』





興味あるって言われたことと、顔を覗かれていることが恥ずかしくて目をぎゅうって瞑ってさらに下を向くと「わかった」って笑みを含んだような声が聞こえて、私が目蓋を開けると水戸、と言った男子はまだ私を見つめていた。





真剣な眼差し
(なんだか恥ずかしくて、私はまた目を瞑った。)



「あははは、顔真っ赤」


『もー、なんなの...』


「購買で何回かあんたの事見かけてから、気になってたんだよね。名前、教えてよ」





 


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