☆短編集〜銀切華〜
□傷ついた唇にキスを。
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俺には癖があって。
それは他人から見たらただのくだらない行為で………
【傷ついた唇にキスを。】
『はぁ……疲れた…』
夕暮れ時はもう終わってしまって暗い中を明かりが照らす街を歩きながら銀八はそう呟いた。
『今日はいつも以上に疲れてるみてぇだな?何があったんだ?』
いつも。
俺と銀八は生徒と先生、男と男だがお互いに恋愛対象として好き合っているため付き合っている。
だから必然的にいつも帰路を共にする。
『実はな……今日、辰馬のやつにお昼の唐揚げを2個も取られちまったんだよ!!』
……………。
『それだけかよ……』
その口から出された言葉が余りにも下らない内容だったのでため息をついてしまった。
『今日はな……それだけじゃねぇんだよ…』
そう前置きをして銀八は勢いよく今日、坂本にされた嫌なことを話し始めた。
折角やった仕事のプリントをなくしてしまうとか。俺のイチゴ牛乳を飲んだとか。男のくせに連れションに誘うとか。無駄にベタベタ引っ付かれるとか。つかもうあの笑い方がウザいんだとか
途中から今日の愚痴じゃなくて今までのことも話始めて、
沢山言っていたけど俺は聞きたくなかった。
それはただの愚痴。
でもそれは一緒にいる時間が長くて仲が良いことを表しているようなものだから。
俺は唇を噛み締めた。
今にも心から溢れてきそうな嫉妬心を抑え込むように。
聞くふりをしながら、相槌をうつふりをしながら……
『あ、ねぇここのコンビニ寄ってもいい?』
銀八はコンビニを見つけると、坂本の愚痴を話すのを止めて俺に聞いた。
『別にいいけど…』
拒否する理由もないので俺がそう答えると、その返答を聞いて店に入って行った。
俺も追うように店に入る。
『……何を買うんだ?』
入ると銀八は雑誌コーナーをウロウロしていた。
『んー……これ』
そう言って手に取ったのは
[巨乳美女大集合!(特別号)]
と書かれたエロ本だった。
『………………。』
一瞬、何を言っていいのかよくわからなくなった。
『やっぱりこの胸のデカさは反則だって、高杉もそう思うだろ?』
男だから、女に興味を持つのは当たり前で。
先生は大人なんだからエロ本を買うのはおかしいことではない。
むしろ健全で、正しい。
俺はまた唇を噛み締めた。
震えそうな声を抑えながら、
『確かに、そう…だな。俺もそう思うぜ』
と嘘をつく。
さっきの話に続いて、今度はこれか…今日はどうもついていない。
銀八がレジで会計を済ますのを眺めながらそう思った。