☆短編集〜銀切華〜
□"HAPPY BIRTHDAY晋助"
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「ハッピーバースデー晋ちゃん!」
風呂に入り歯磨きもして、ようやく寝れると布団に入ってまだ1時間も経っていないだろうという頃、アラームをかけている為マナーモードになっていない携帯から電話の着信音が流れ出した。
相手が誰なのかを見てから電話に出るほど頭が回っていなかった俺はその声の主が誰なのかを理解するまでに少しの時間を有した。
『誰かと思えば銀八かよ…なんの用だ』
寝る直前だった俺の頭は突然のテンションの高い声を拒否しているのか、不機嫌な低い声が静かな部屋に響く。
「なんの用って…だから誕生日おめでとう」
どうして不機嫌なのかわからないと困惑したような銀八の言葉を聞いて多少の違和感を覚えた。
誕生日は明日じゃないのかと思った俺は耳元にあてていた携帯を一度目の前に持ってきて日付を確認する。
8/10FRI 24:02
あぁなる程と納得して耳元に携帯を戻した。
どうやら俺が寝た時は9日だったが寝ようと試みている間に10日になったようだ。
「…たらいてもたってもいられなくなっちゃって」
『あ、わりィ。聞いてなかった』
俺が携帯を耳元から遠ざけた間にも喋り続けていたらしい銀八は酷い…と言いながらももう一度最初から話してくれた。
「ふと時計をみたら23時58分でさ、あと少しで高杉の誕生日だ。明日のパーティー楽しみだなぁとか思ってたら8月10日になっちゃって、誕生日だと意識したらいてもたってもいられなくなっちまってよ。流石に家に行くのはまずいんで電話したって訳」
だからってこんな夜遅くに電話してくるんじゃねぇよと思いながらも返事を返す。
『こんな遅くに電話してくるぐらいだったらお前泊まりにくれば良かったのにな。親いねぇし』
「え、良かったの!?そんな事始めて聞いた。じゃあ今からでも高杉の家に…」
泊まりに来てもいいと言われたことがよほど嬉しかったのか、始めよりもさらに声が高くなった。
『あーやっぱ止めるわ。お前と泊まったら絶対にヤられるし』
自分の誕生日に腰を痛くする馬鹿なことは絶対にしたくないし。
「どっちなんだよ、まったく。ちょっと期待しちゃったよ銀さん」
『ヤらねぇって選択肢は?』
「ないね。寝てる晋ちゃんを見て平常でいろっていうのは無理な話じゃん」
…………。
多少、飽きれを感じて黙っていると
「え、ちょっ…引かないで!」
と焦る銀八の声が聞こえた。
『引いてねぇよ。今日、どうせまた後で会えんだからもう切っていいだろ?』
昨日は徹夜でゲームをしていたので眠気はピークに達していた。
「もうちょっと…」
『眠ぃ』
「わかったよ。あ、そうそう晋ちゃん」
『あぁ?』
「愛してる。じゃあねお休み」
銀八はおまけとばかりに恥ずかしいことを言って電話を切った。
死ね、と一言部屋に吐き捨てながら閉じた携帯をベッドに投げ捨てた俺はこの暑いのに布団を頭まで被った。
顔の熱が引くまでの時間で眠気が覚めてしまった俺は後で銀八を怒鳴りつけてやろうと心に決めたのだった。