☆短編集〜銀切華〜
□食い違いも愛しさ
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『晋ちゃん、ティッシュ取ってくんない?』
『ん。』
ある日常のワンシーン。
今はこれが普通なのだが少し前からすると考えられない。
あれは同居し始めて2日目のことだった―――
「高杉、ティッシュ取ってー」
「これか?」
「そうそう。箱ごと投げてくれればいいから」
そう言うと同時にポーンと飛んできた箱をいい感じにキャッチした俺は「あー…なんかこういうのいいなぁ」なんて思いながら鼻をかんだ。
「お前、何してんだ……?」
その様子を見ていた高杉は怪訝そうな顔をしてぽつりと呟く。
「何って鼻かんでんだけど…?」
「んなこたァわかってる!
俺は何でティッシュを1枚しか使わないんだって聞いてんだよ!」
「は?」
1枚……?
「何言ってんの?俺はいつも1枚だけど……?」
あたりまえじゃんと言うと高杉はありえないという顔をした。
あ、可愛い。
「つか逆にこれ以外にどうやってやんの?」
「どうって……まずティッシュを2枚取って―――」
高杉が説明してくれたことをまとめると
@ティッシュを2枚とる
A一回折る
Bかむ
まぁこんな感じ。
「ティッシュって元から2枚重ねじゃん!
わざわざ2枚取ることねェよ」
「1枚じゃ心配だろ?突き抜けたらどうすんだよ!
手に鼻水着くんだぞ……」
「突き抜けねェよ!!
鼻水どんだけ勢いあんだよ!!」
「ありえねェ」
こんな下らない話で真面目に30分くらい口論した記憶がある。
『俺達も成長したねー』
思い出に浸っていた俺は鼻をかんだ後、晋助にそう言った。
『いきなりどうした、ついに頭の中まで天パみたいにねじ曲がり始めたか?』
俺の隣で本を読んでいた晋ちゃんは顔をあげながら毒をはいた。
『毒をはいたってなんだよ。もう少しましな言い方はねェのか』
『だって銀さんの心にズサッと刺さったんだもん。つか人の心を勝手に読むな!』
『今のはたまたま聞こえただけだ。普段はわかんねぇよ』
そんな言い方に少しイラッとした俺は晋助に近づき手を回して抱きしめた。
『ちょっ//いきなり何すん
そう動揺して発した言葉を遮って耳元で囁く。
『嘘…だよな?本当に言いたかったのは『俺は銀時のこと大好きだから心の中でもなんでも考えてることがわかるんだ』だろ?』
自惚れし過ぎだって?そんなことはわかってる。
でもな?俺はお前にそう言って欲しいんだ。
だから、そうだと言ってよ。
ね?
『……………そ…だな…』
目線を反らしつつ照れながらそう呟く彼。
あーもう、凄い愛しい。
『んで?結局何でだよ//?』
この恥ずかしい状況を早く打破したいと思ったのか、俺を自分の体から剥がしつつそう言った。
『俺達が同居し始めたばかりの頃にさ。ティッシュは1枚か2枚かってことで喧嘩したじゃん?』
『2枚だろ。』
『あの頃と比べると俺達、凄い成長したというか親密になったよなって』
『いや2枚だろ。』
『ねぇ、聞いてる?』
『2枚だろ。』
自分から何のことだと聞いてきた俺の話をスルーしながら『2枚だろ。』と言い続ける晋ちゃんに怒りや呆れなんて感じないでただ可愛いなぁと思ってしまう俺はもうダメなんだろうか。
『おぃ銀時聞いてんのか?』
『聞いてるよ、可愛い晋ちゃん』
『タヒね』
『そういうこと言わないの!』
どこでそんなネット用語覚えてきたの!!
お母さん悲しいよ!
『誰がお母さんだ。おめェから生まれた記憶なんかねーよ』
『そこは突っ込んじゃダメだろ。
そんなことより、今じゃ俺も晋助に合わせて2枚使うようにしたんだからいいじゃねェか』
ムスッと怒る彼の頭を撫でながら俺はそう言った。
『ま……いいけど』
許しを得られた所で今度は俺が虐める番な?
『他にも洗濯物を洗うときにひっくり返さないとか』
『今じゃ俺、ちゃんとひっくり返してんだろ?』
『タオルを1回で洗濯に出しちゃうとか』
『そ、それは仕方ねェだろ!汚ねーんだから!!』
『あとは………』
『もういいだろ!!今は落ち着いたんだから……』
前に食い違っていた点を上げていく度に焦るお前が可愛すぎる。
『そうだな。まぁ俺は高杉がいればそんなのどーでもいいけど』
『…………俺も銀時がいればそれでいい』
その一言。
言ってくれて嬉しいよ。
そう俺が思ったことがわかったのか
『これからもよろしくな//』
と照れる彼。
あーもう…………
『おぅ』
大好き。
『あとよ、銀時』
『なんだ?』
『高杉って呼ぶな』
『あ、またやっちゃった……』
『今度呼んだらお前のこと坂田って呼ぶぞ』
『それだけはやめて!!ゴメンゴメンね晋ちゃん!』
こんな幸せがずっと続きますように……
END
→後書き