☆リクエスト

□地獄を彷徨う蝶々
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走って走って…それなのに、何処にも逃げられなくて。眼前で繰り広げられる殺人劇を俺は笑って観ていた。


息をすれば血の香り、目を開ければ仲間の死。それでも息を止めて、目を瞑って…俺はあの人を助ける為に刀を取った。
先生、先生…俺はね。あなたに幸せになってもらいたかったんです。

しばらくして俺は鬼兵隊という集まりを作り、がむしゃらに戦場を駆け回った。
そんな嫌気がさすような毎日があたりまえに感じるようになってしまっていたある日。一つの連ら…く……が…あああああ。


紫、赤、緑。奇妙な色の血が雨のように降りかかる。気持ちが悪いはずなのに今はその血が自分より綺麗に見えて。
ああどうして俺は戦ってるの?この気持ちはどう処理すればいいの?自分の中では抑えきれない、耐えられない。

「あは、あはは。あははははははは」

気付いた時、俺は戦場の真ん中で笑っていた。何も映す事のない左目を抑えつけながら。

もういっそ死んでしまおうか。それもいいかもしれない。力が抜けた手から刀が滑り落ちる。周りを取り囲んでいた化け物たちの刃が俺に向けられて…ああ斬られる。そう思った瞬間、夢だろうか…瞳に白が映った。


「高杉」


そいつは俺にそう呼びかけた後、一瞬で周りを血の海にした。化け物より化け物じみていた男は血のついた刀を納めて俺を抱きしめた。
どくんどくん、と動く心臓の音に自分の存在を感じた。

「死なないで」

お前まで失ったら、俺は。さっきの姿からは予想も出来ないほど弱々しい声で呟かれたその言葉に

「銀…先生がっ…松陽先生が…死んじまった…」

今まで零れる事のなかった涙が零しながら俺はその男の紅い眼に訴えかけた。
どうして?なんで?解決することができないと認めたくない疑問をぶつけるたびに流るる涙を彼は何も答えずにすくっていた。

「こんな世界はいらない」

最後に俺がそう言うと彼は抱きしめる力を強め、今まで黙っていた口を開けた。

「大切な人を奪ったこの醜い世界が憎い。気持ち悪くてどうして自分はこんな所で生きてるんだろうって…それは俺も思ってる。でもそれを受け入れる事はあまりにも辛くて、難しくて。俺は考えるのを止めた。汚くたっていい今だけでもいい。少しでも考えるのを止めろ」

そんなこと先生への裏切りだ。だから俺はこうやって悩み続けているのに。


「どうやったら楽になれる?」「簡単だ、考えるのを止めればいい」

上から降ってきたキスに意識が絡め取られていく。

甘い誘惑に誘われて…蝶々が蜜を吸ってしまったら。
地獄に舞い戻る事は出来ないだろうけれど。



堕ちていく二人を照らす月が今夜は恐ろしいほどに綺麗だった。



→後書き


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