☆リクエスト

□素直な風邪猫
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先程から屋根を打つ雨音が嫌でも耳に入る。冬の雨は冷たくて苦手だと思いながら糖と書かれた上着を羽織った。

「銀さんまだですか?」
「おう、今行く」

今晩はお妙の家で鍋パーティーということで珍しくお呼ばれされている。急かすように呼び掛ける新八の声に応えて玄関へ足を動かした。

「銀ちゃん、新八!大変アル!」

ブーツを履き終えた所で先に下に降りていた神楽が慌てて階段を駆け上がって来た。

「どうしたの神楽ちゃん?」
「下で人が倒れてるヨ!」
「人が…?」

神楽に続いて階段を降りると確かにスナックお登勢と書かれた看板の前に人が倒れていた。

「酔っ払い?」

もう明かりが灯っているスナックの前に倒れていたとなればその可能性は高いと思われる。着物からして女だろうに珍しい、そう思いながら呼吸確認の為に腰を降ろした。

「生きてるアルか?」
「あぁなんとかな」

前髪で隠れているうえに辺りは暗くて顔や表情を良く見ることは出来ないが息をしているということは確認出来た。

「この人どうします?」
「さて…どうしますかね」

この場に置き去りにするなんて選択はまずない。かといってお妙との約束を破ったら間違いなく殺されてしまうだろう。仕方ない…

「俺がこいつを家に上げて気が付くまで介抱すっから、お前らはそのまま新八の家に行け」
「で、でも…」
「てめェの姉上にはわりィって言っといてくれ」

暫くグダグダ言っていた二人を言いくるめて向かわせた後、寒く静かな空間には俺とそいつが残っていた。


「さて…」

よっこらせと老人のような掛け声をかけながら、属に言うお姫様抱っこの体制でその女を扉が開けっ放しになっていた万事屋へと運び入れる。
そして廊下の壁に一時そいつを寄り掛からせながら洗面所からタオルを沢山持って来て、全身ずぶ濡れのそいつをとりあえず髪から拭き始めた。
先程は暗かったのでよく見えなかったが彼女の髪は紫がかった黒色で女にしてはやや短めに切られているようだった。

次は顔…と前髪を掻き分けた所で俺の手は無意識に止まった。

「え、高杉?」

その顔には確かに見覚えがあった。江戸で指名手配中の攘夷浪士高杉晋助といえば有名だが、俺の中では恋人の二文字で表される掛け替えのない存在である。
そんな彼がどうして、と思ったのだがそれを考えるのは彼の介抱の後にしなければと我に返った。

高杉なら遠慮はいらないと水を吸って冷たく重くなった女物の着物を脱がし風呂場に連れていき、お湯をかけて体を温める。ついでに自分も濡れてしまったのでシャワーを浴びた。

十分暖まっただろう頃に高杉を風呂場から出し、自分より先に体を拭いてやる。

んっと声が漏れたので気づいたのだろうかと思い、体を揺すると高杉は片方しかない目をゆっくりと開けた。

「気づいた?」
「ぎ…ん…とき?」

彼は朧げにもごもごと口を動かしそう呟いた。

「立てるか?」

返事の代わりにコクンと頷いた高杉はゆっくりと立ち上がった。

「体は大体拭き終わったんだけどこれ着れるか?」
「ぎん…頭痛い……」
「頭?」

手に持っていた寝間着を一旦床に置き、そう言う高杉の額に手をあてると平温より高めの温度を感じた。

「風邪だな…布団貸してやるからこれ着て寝ろ」

そう言って寝間着を差し出した。



とりあえず高杉に寝間着を着せ、朝から敷きっぱなしの布団に寝かせてきた所でふぅと一息ついてソファーに腰を降ろした。

ひやりと背中に感じた冷たさで、まだ自分が服を着ていないことに気がついた。

「どうりで寒いと思った」

独り言は静かな部屋に響くなと思いながら、お妙の家に電話をかけ今日神楽を止めてもらえないかという旨を伝えた。
許可を貰えたのであらためてこれからどうしようかと考えてみた。
結果、お粥と自分の夕飯を作りに濡れてしまった着物を洗濯すればいいかという結論になったので行動を始めた。


「高杉―?」
洗濯と自分の食事を終えた俺はお粥と何故か家にあったポカリを持って襖を開けた。呼びかけても返事がないのでまだ寝ているようだ。
起きる気配がないので仕方がないと肩を揺すぶると、目を覚ました。

「起きた?おはよう」
「ん…」
「おかゆ作ったんだけど食べれそうか?」
「ああ、食える」
「じゃあどうぞ」

高杉の体を起き上がらせ、持ってきたお粥とスプーンを渡した。しかし、彼は何故かいっこうに受けとろうとはしない。

「高杉?」
「食わせろ」
「え?」
「俺におかゆを食べさせろ」

熱があるせいかいつもより迫力のない睨みをきかせて赤い顔でそう言うものだから

「はいはい」

ついつい口元が緩んでしまう。

「なんだよ、気持ち悪ィな…ちゃんと冷ませよ」


その後、熱いやら味がないやら色々と悪態をつきながらも高杉はおかゆを完食した。

「こんだけ食えばもう大丈夫だろ。あとは寝れば治る」
「そうだな」

そう言う高杉が布団に潜り込んだのを確認して俺は和室の電気を消した。

「銀時」
「なに?」
「俺が寝るまでここにいろ」

風邪だからか、素直に甘える高杉の行動が嬉しくて側に座り手を握り締めた。

「今日の晋ちゃんはいつにも増して可愛い」
「うるさい」

酷いことをいいながらも離さないでとばかりに強く手を握り返す高杉は本当に可愛くて。
普段、彼が見せることのない隙を見れて嬉しいと思う自分がいた。

「今日はなんで俺のところに来たの?」
「…………」
「言いたくないなら別に…」
「俺だって、たまには…寂しいとか思うし。お前に会いたいとかっ」
「晋ちゃん、晋ちゃん」
「なんだよ」
「それ反則。可愛すぎ」

そっぽを向いてきっと顔を真っ赤にしているであろう彼を後ろから抱きしめてそう言った。

「キスしたいんだけど」
「ヤダ」

拒否する高杉を強引にこっちに向かせて口付けた。

「んの…俺、病人なんだけど」
「うつせば治ると思うぜ」

そしてまた一つキスを落とした。



「ん…あれ」
閉じられていた目を開けると部屋に光が差し込んでいた。どうやら高杉に抱きついたまま寝てしまったようだ。

「そうだっ高杉!?」

自分の手の中に高杉はいなかったので、起き上がり急いでリビングの襖を開けた。すぱん、という音が響くだけで視界には誰も映らなかった。

「あのヤローどこ行ったんだ」

そう呟きながら髪をくしゃくしゃとしながら自分の机に近づくと昨夜にはなかった紙が机の上に置いてあるのに気がついた。

「ん?なんだこれ」


治ったし、服乾いてたから帰る。
昨日のことは忘れろ。悪かった。
それとありがと。 高杉


「ったく…」
お礼ぐらい直接言いやがれ、どんだけ恥ずかしかったんだよ。



→後書き


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