☆リクエスト
□求めて、求められて
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『なぁ……銀八』
『んー?』
『銀八は俺のどこが好きなの?』
窓から心地よい温度の風がカーテンを揺らして入り込む。ここは国語準備室。
風に髪を揺さぶられながら彼は、机に向かって仕事をしていた俺の近くに立ってジーっとこちらを見ながらそう呟いた。
可愛い一言に思わずにやけてしまいそうな口元を押さえて返事を返す。
『そうだな……』
顔をあげて彼を眺めると、どう?とでも言うように首をかしげた。
恋人兼生徒である彼、高杉晋助の好きなところ。
考えるまでもない。
『何回も言うけど一目惚れだった。
俺は入学式の朝、ここの窓から新入生が登校するのを眺めてたんだ。その時にお前を見つけた。
妙に惹きつけられた…桜の花弁が舞う中、なんとも言えない気持ちが俺の中を走りぬけて。
男とかそんなのはもう関係なくて。あ、好きなんだって思った。だから…よ…』
晋助の髪に手を伸ばして彼の髪を梳いて、目を見つめた。
恥ずかしがって逸らされてしまったけれど。
『この紫がかった黒髪もその片方しかない深緑色の目も…いや、お前自体が大好きなんだ。』
俺が言う事に反応して紅潮していく頬が愛おしい。
愛おしいから、優しく唇にキスをしてやった。
『なっ……』
『可愛い』
可愛いという言葉に喜んでいいのか怒るべきなのか迷うように顔を歪ませている。
この気持ちを何と言って良いのだろう。
愛おしくて、愛おしくて堪らない。
『あ、あと勘違いされると困るんだけどよ…俺は、お前の見た目だけが好きな訳じゃねェからな?
ちゃんと性格も好きなんだからな!?』
『何、急に焦ってんだよ』
わかったよ、そう言う晋助。
時計が12時を示す音を鳴らした。
ポーン、ポーン……
この音を聞いていると思い出す。
『そういやいまこんな会話が出来んのも高杉のおかげなんだよな。』
昔の自分を振り返る。
確かに、初恋だった。
でも教師と生徒。男と男。きっと叶わねェと思ってた。
好きだから、気がつけば目で追ってしまう。
見れば見るほど恋に落ちていった。
教師だからと言い訳をして彼の厄介事に首を突っ込んだ。
自分の物にしたくて。
でも嫌われたくないから。我慢した。
『突然お前に告白されて、俺は求められた』
ある日、この部屋で俺は高杉に告白された。
その時にもこの12時の音を聞いたんだ。
こんなに簡単に…と思った。
それでも縋ってしまった。
欲しくて欲しくて、でもダメだと諦めていたものが。
あっちから俺の物になりたいと言ってくれた。
どれだけ嬉しかったか。
『俺は結局、俺のことを求めてくれるお前が一番好きなのかも知れない』
いつも大人ぶっているけれど、嫉妬してばかりで情けない自分を晒しても。
高杉はそれは嬉しいともっと俺を好きになってくれた。
俺がそう言うとくすりと笑った晋助は一言。
――――――――なんだ、俺と同じだったのか。
俺はお前が求めてくれたからお前が好きになったんだ。
あぁ今が幸せすぎて泣きそうだ。
求めていたのに、求められなければ手に入れられなかった男と
求められていたから、求めてしまった彼。
そんな二人のお話。
→後書き