☆リクエスト

□今日も桜が満開ですね
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ひやりと季節の変わり目を感じる冷たい風が頬を撫でる。薄着をしてきて失敗だったなと体を包み込むように手で暖めるも気が紛れるだけで何も変わらなかった。
ふぅ…と一息零して目の前の木を眺める。

(あぁ……懐かしい)

この木は桜なので今は花が咲いていないはずなのだが、あの楽しかった幼少の思い出が詰まっているこの桜の木だけは俺の目が一年中美しく咲いている姿を映してくれる。

何か辛いことがあった時にこの木を見に来るのが今では当たり前になっていた。決して今の生活に不満がある訳ではない。
ただ少し……過去に囚われてしまうだけだ。


何とも言い難い感情に駆られながら桜の木の幹に手を置くと、背後に鋭い視線を感じた。足音から一人だろうと推測できたが、俺の他に誰がこんな所に来るのだろう。そう思いながら振り返る。

『よォ』

振り返ると同時にかけられた声と目にした容姿からその相手が高杉晋助だと気づく。
何故此処に高杉が居るのだろうと驚き、戸惑っている俺などお構いなしに彼は言葉を続けた。

『久しいなァ、銀時。元気にしてやがったか?』

そう言いながら口角を上げる高杉を見ていると胸が苦しくなった。


『次会ったら……ぶった斬るって言ったじゃねェか』

『ハッ……本当、分かり易い嘘だなァ。

確かにおめェは大切な物を護る為ならどんな敵とでも戦うだろうよ。
例えそれが自分の力が及ばない相手だろうと、決して諦めることはない。
それは嫌というほどわかってる。

だがな、俺はお前に倒せねェ物があるってのも知ってる。
それはな…仲間だ、銀時。
お前に大切なものは傷つけることはできない。
一度大切なものになっちまった俺を……おめェは殺せねェよ。
最愛の相手なら尚更な』


こんなにもはっきりと自分の中で認めたくない部分を晒されて、動揺している。
この場から今すぐにでも立ち去りたいという気持ちを押し殺して声を振り絞る。

『確かに…俺はお前が好きだ。こんな関係になっちまった今でも大切だと思ってる。それは否定のしようがねェ事実。

でもな、俺はこの手に余るほど大切なものをまた作っちまったんだ。そいつ等を失うのが怖ェんだよ。お前を殺してでも護りたいと思えるほどに大切なんだ』

目を瞑ると脳裏に浮かぶ新八、神楽を始めとしたかぶき町の奴ら。
目を開ければ最愛の相手。


選択が迫られている。俺は目の前で不敵に笑う男を見つめた。

『だから俺を殺すってか?ククッ……殺れるもんならやってみやがれ』

そう言い放った高杉は腰の刀を抜いて素早く俺の元へと駆け寄ってきた。それに反応して俺も木刀を抜き、高杉の刀を間一髪頭上で止めた。
隙を与えず相手の足に木刀を勢いよく打ち付ける。その衝撃で倒れそうになった高杉を見て僅かに油断した俺は左肩に一太刀浴びせられた。
グサリという音と鮮血が飛び散る。

『ちくしょ…』

右手だけで力任せに木刀を振り回し、高杉の刀を凪払いながら打ち込んでいく。
刀と木刀とがぶつかり合う音とお互いの呼吸が暫くその場に響く。


『ッ……腕は衰えてねェようだな』

俺の攻撃をすれすれでかわしながら高杉がそう言った。

『当たりめェだろ。…クッ……お前は俺を誰だと思ってる訳?』

カランと高杉の手から刀が落ちる音がした。


俺はそれを素早く拾い倒れている高杉の首元に突きつける。

『やっぱり天下の白夜叉様にはかなわねェな』

『俺には護るもんがあるんだ。負ける訳にはいかねェよ』

この状況でも満足そうに笑っている。何で…何でなんだよ。

『愛してたぜ、銀時。幼い頃この桜を一緒に見た時から、離れちまった今までずっとおめェの事ばかり考えてた。
そんなお前に殺されるってんなら本望だ。じゃあな……』

自分の死を潔く認め。儚げに笑う彼の顔。
あの時のような無邪気さはないけれど……それにどれだけ惹かれたか。
あぁ…なんて綺麗なのだろう。

喉に突き付けていた刀を振り上げる。これをあと一振りすれば彼は死ぬだろう。
強い風に一度強く目を瞑る。瞑った先に映ったのは……


グサリ





『……なんで…』

そう声を漏らしたのは俺ではなかった。

『ははっ…格好悪ィ……』

俺の振り上げた刀は高杉の体には刺さらず、隣の地面を突き刺した。

『あんなこと言っておきながら。やっぱり俺にはお前をを殺すことが出来ねェみたいだ』

血に濡れた手と高杉を順番に見つめながら苦笑いをこぼす。

『銀…』

『お前とかぶき町の奴ら。秤にかけるなんて俺には出来なかった。
秤にかけてどっちかを選べるほど出来た人間(やつ)じゃないんだ。出来る事ならどちらも自分のものにしたいと願ってる。
貪欲なんだよ俺ァ……だがな』


“ねぇ先生、沢山ある大切なものの中からどうしても一つ選ばなきゃいけない時はどうしたらいいんですか?”

“おや、いきなりどうしたのですか?また難しい質問をするのですね、銀時は。そうですね…そんな時私は…”


『“どんな事をしてでも全部自分のものにしてやる”』


しばらく沈黙が続く。
高杉が今何をどう思っているのかは分らないが、どう思われようと俺の気持ちは変わらない。

『俺と一緒に』

そう言って俺は高杉に手を差し伸べた。

『……俺はてめェに殺されかけた。ここで死ぬのもいいと思ってたが、生かすも殺すもお前次第だからな。俺の命なんて好きにしろ。お前がそう望むなら…』

彼は手を伸ばして俺の手を掴んだ。

『お前のものになってやるよ』


そう言った高杉の手を引っ張り抱きしめると、久しぶりに感じた彼の体温が妙に心地よくて。


“今日も桜が満開ですね”

→後書き


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