☆リクエスト
□最悪で最高の記念日
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太陽は東に傾き部屋に橙色の光が差し込み始めた頃。
俺は筆を必死に動かしていた。
目の前には何枚もの紙が皮肉なほど綺麗に積み上げられてある。
今朝より少しは減ったであろうその仕事の内容は武器の調達・予備食料の確保・新たな仲間の勧誘など基本的な物から上方の後ろ盾を得るための書状を書くという重大な物まで幅広い。
普段はヅラや辰馬がこのような仕事を担当しているので俺に回ってくることはほとんどない。しかしそれはあくまでも戦で二人が怪我をしなければの話だ。
まぁつまり、俺は二人が怪我をして以来手が付けられていなかった仕事の処理を押し付けられてしまったということだ。
チッ…と舌打ちの音が静かな部屋に響いた。
仕事に文句を言うつもりはない。戦で怪我をした事を怒ることほど理不尽な話はない。
では何故、俺はこんなにイライラしているのか?そんなことはわかりきっている。それは…あいつが馬鹿だからだ。
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調度、朝食を食べ終えて俺が一息ついていた頃。
『晋ちゃん、おはよう!!』
縁側に座って太陽の光を浴びていた俺の後ろからいきなり手が伸びてきて、それは俺を締め付けた。
『離せ、銀時』
顔を自分の左肩辺りに向けると、今日初めて見る銀時の顔が至近距離にあった。
『ヤダ』
銀時の口が動き否定されたのだと理解した瞬間、小さなリップ音がした。
『………ッ!?』
『おはようのキス(笑)』
朝っぱらから急に頬にキスをしてきた銀時をとりあえず殴るべく手を振り上げるが、当の銀時は俺が戸惑った一瞬の隙を見て被害の合わない場所にまで逃げていた。
『死ね』
手が無理なら目線で殺してやるというぐらいの気持ちで俺が睨みつけながらそう言うと、銀時はごめんごめんと謝りながら俺の隣に座った。
俺はとりあえず座った銀時を一発殴った。そうしたら照れないの!とか変なことを言ってきやがったのでもう一発殴ってやった。
『あのよー高杉、今日何かある?何もなかったら甘味食べに行かない?』
うぉ痛ァ…と言って苦痛に顔を歪めていた銀時がそう尋ねた。
『悪ィな。今日は仕事がある』
『そっか…』
俺が今日暇ではないとわかって、あからさまにガッカリした顔をさせる銀時は
『じゃあ誰か別の奴を誘って行くか…確かあいつら今日何もないはずだよな…』
と独り言を言い始めた。
ズキリ。
胸に何かが刺さる。
理由はわかってるが……毎回、これには悩まされる。
なんでこんな日に仕事なんてあるんだよ。
『なぁ、銀時。仕事手伝ってくれねェか?』
『えー怠い…』
何の甘味を食べるかを考えていたのか嬉しいそうに輝いていた顔は俺の話によって不機嫌そうな顔へと変わった。
『じゃあいい。………話変わるけど、お前……今日が何の日かわかってるか?』
試しに聞いてみる。
わかんないなんて言われたらどうしたものかという心配もあるが、まぁ流石にこれは大丈夫だろう。
『…今日、なんかあったっけ?』
『…ッッ…!?……な、なんでもねェ…!』
『まぁいいか、じゃあな。頑張れよ〜』
動揺を隠せなかった。
最低だ。
最悪だ。
銀時は俺と付き合って1年目の記念日を忘れて別の野郎と甘味処へと出かけて行った。
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