ごちゃまぜ銀高企画、本棚

□I want to drown to happy.
1ページ/1ページ




目を覚ました時、既にあいつのぬくもりはなかった。枕元のデジタル時計に目をやれば正午を少し過ぎた時間帯。
何かを焼く音がするので昼飯でも作っているのだろう…そう思って起き上がり、キッチンへ向かう。

「あ、晋ちゃん。おはよー」
「はよ…」

俺の目に入った金時のエプロンを付けた姿は、煌びやかな金髪の彼に余りにも似合っていない。
だが慣れというのは恐ろしいもので最近は意外と様になっているのではないか、そう思うようになった。
その変化が何だか嬉しくて、俺はクスリと笑った。

「何笑ってんだよ…ったく。ほら、朝…じゃねーや、昼飯出来たから先座ってて」
「んー…」

お茶とコップを二つ取り出し、それを机の上に並べ席に着くと、すぐに料理を持った金時がやってきた。
どうやら今日のお昼はスパゲッティのようだ。二人で雑談をしながらそれを食べ始める。


「そのホストがドヤ顔で意味わからない事言うから場がしらけちゃってさ」
「で、お得意の饒舌トークで空気を戻したと」
「そうそう、良く分ったな」
「お前、基本自分の自慢話しかしないからな」
「そんなことないですぅー…あ、自慢と言えば――」



そんな話をしながら食事を食べ終えて、しばらく経った時、部屋に携帯のアラームが鳴り響いた。
一瞬で空気が変わったのが分かる。楽しい時間はあっという間だ。

そして尋ねた、いつもの質問。結局、返ってきた金時の返事はいつもと一緒だった。

「なァ…お前、今日も仕事あるの?」
「今日は…ある、かな。お得意さんが来るとか来ないとか」
「………。」
「そんなあからさまに不機嫌にならないでよ」
「別に…あと、今日も大学あるから…」
「…そっか、わかった。頑張って」

無駄に込み上げてくる衝動を抑えつけることに必死で、俺はそう言う彼の顔を見ることが出来なかった。







「ただいま…」

発しても、意味のない言葉は暗闇に吸い込まれて消えた。広い部屋は一人という事を無駄に強調してくれる。
靴を脱いで電気を点け、帰宅後初めに向かったのはお風呂場。今日は例年の平均気温を大きく上回る暑さだったので、汗を流そうと思ったからだ。
まぁそれは言い訳に過ぎず、本当の理由はこの寂しいという気持ちを少しでも抑えられたら…ということなのだが。

シャワーを高い所で固定し、頭から浴びる。しかし、目を閉じると浮かんでくるのはやはり金時のことだった。

金時はホストで俺は大学生。昼間に講義がある大学に進んだ後に彼と出会い、付き合い始めて約半年。
夜と昼、真逆の時間帯に互いの用事が入っている為、普段一緒にいられる時間は限られていた。
せめて少しでも、という金時の提案で俺はこの家で生活している、が…それでも少ないものは少ないのだ。

濡れた体をタオルで拭いている際に目に入った、歯ブラシや洗濯ものなど自分以外の私物は金時が確かにここで生活をしているという証。
それを見て、抑えるどころか余計に込み上げて来る寂しさを止めることなど出来なかった。

その後、向かったキッチンには金時が作り置きしてくれてた夕飯があった。
近くの書き置きの内容は『To愛しの晋ちゃん 今日はカレーライスだよ。あっためて食べてね! From金時』といういつもの馬鹿らしい手紙。
今はそれすらあまりに嬉しくて、あまりに悲しくて、あまりに寂しくて。零れ落ちた涙を自分で掬いたくはなかった。


どうして、今、こんなに会いたいお前が此処にいないのだろう――




「ただいま……ってどしたの、晋ちゃん!?」

その声に振り返れば、そこには会いたくて会いたくて堪らなかった彼がいた。

「きん、とき…?なんで…」
「晋ちゃんが寂しがってたから……いや、違う。俺が晋助に会いたかったから」
「……おかえりなさい…」

久しぶりに金時を抱きしめた時、寂しさなど一瞬で埋めてしまうほど幸せな気持ちで溢れた。
このいつも以上に感じる幸せは、きっと会えない時間が長かった所為。
だからといってこの幸せの為に寂しさを差し出せと言われたら、きっと「嫌だ」と答えてしまう俺は我儘だろうか。


対価を差し出したのだから今だけは幸せに溺れさせて。





最初のぬくもりの件は夜、目が覚めたら金時が横に寝てたからです。

晋助が女々しい、誰だよ感。

そして英語って格好良いよねってノリで付けたタイトルが間違ってたらすみません。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ