ごちゃまぜ銀高企画、本棚

□滑稽に瞳を揺らして溺れる私を
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白い肌に紅く塗られた唇。綺麗に着飾られた自分を眺めて、俺はため息を吐いた。
顔の左側に長く伸びた紫髪を掻きあげ、閉じた瞼を上げる。
右目が捕えたのは鏡に映る黒い穴。そう、俺の左目には――瞳がないのだ。

この広い吉原の中でも容姿端麗、床上手と歌われた俺を買おうとした男は幾等かいた。
だがその度この目を見つけ、気持ち悪いと一言。捨てられるのだ。

傷物は生き残れない。

「晋、お客だ」
「はい…」

襖が開かれ、呼び出される。さぁ残酷な夢の始まりだ。


「ようこそ、おいでくんなまし」

未だに使いなれない廓言葉。

決まりきった言葉を使い、決まりきった笑顔で下げた頭を上げた。
視界に映ったのは紫の着流し、銀色の髪、顔にまかれた包帯。なんとも怪しげで美しい男だった。

今まで相手をしてきた者とは何かが違う、そう感じて固まる俺などには目を向けず、彼は食事の並べられた盆の横に座り「酒」と一言御猪口を差し出した。

「はい、ただいま…」


その男は食事に手もつけずに三杯ほど無言で酒を飲んでいた。

なぜ此処に来たのだろう、こんなお客は初めてだ…そう思いながら彼を見つめていると目があった。
血のような紅色、あまりの冷たさに身震いした。

そんな俺を見てか底に残った酒を飲み干した男は唇が吊り上げ、口を開け言葉を紡いだ。


「お前、滑稽だな」


無意識に息が吸い込まれ、両目が見開かれるのを感じた。突然の一言に俺は一瞬、言葉を失った。

「なんのことでしょう旦那」

嘘を吐いたその瞬間、男の顔が目の前に迫った。
がしゃんと器の割れる音が俺の耳には無駄に大きく聞こえる。

紅い瞳に眩暈がした瞬間、髪は乱暴に掻きあげられた。
勿論、そこに存在するものは何もない。

「クク…気持ちわりィ」

そう呟いたと、理解した所で俺の思考は彼の激しい接吻の所為で停止した。

「ん…ッぁ…はぁ…」
「美味いな、お前」

そう言って彼は笑っていた。

「何故…」

急に巻かれた包帯を取り外し始めた彼に疑問を投げつける。

気持ち悪いと言いながら、何故俺に笑いかけたのだ?

「何故って…」

「俺も気持ち悪ィからさ」

しゅるりと音を立てて外れた包帯の下には、そう。何もなかったのだ。

「…ッッ!?」

他人事だから分ってしまった事実。

「ほらな、気持ち悪ィだろ?」


彼が――気持ち悪い。



その後、俺は彼に抱かれた。
そして偽りだと分っていながらも初めて遊戯に溺れた。

勿論、彼が俺を買ってくれるという事もなく
男は「また来る」という希望だけ残して去って行った。


一夜だけと知りながら
滑稽に瞳を揺らして溺れる私を貴方はそうやって嘲笑うのですね。






白晋の白夜叉×遊女晋助。
吉原ラメント聞きながら作業。
色々おかしくなった。




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