ちょうへん
□真実
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−−いつの間にか、貴方の隣に居ることが当たり前になっていた。
「…律、お前って人間じゃないのか?」
高野さんにそう聞かれた時、俺の頭は真っ白になっていた。
俺が人間ではないと分かったら離れていってしまうのではないか。そう思うと不安に押し潰されそうになった。
ついこの間まではうっとうしいだけの存在だったのに、いつしか俺の中で高野さんの存在が大きなものとなっていた。
高野のさんに聞かれた時、俺は何も答えられなかった。それが肯定の意味を示しているのは分かっているけど。"終わった"、そう思った。
俺が呆然としているのを見て高野さんは微笑しながら言った。
「じゃあ、言う気になったら言って。俺、待ってるから」
気付くといつの間にか俺のケータイに高野さんの番号が登録されていて。まるで、いつまでも待っている、とでもいうように。
(…人間なんてすぐ死んでしまうのに。)
永遠に生き続けるバンパイアに比べたら人間の一生はとてつもなく短い。
高野さんは俺を好きって言ってくれるけれど永遠に生きるなんて嫌だと思う。俺ならそんなの御免だ。
(って!!何うじうじしてるんだよ!?高野さんだぞ!?これを機にストーカーを止めてもらえるじゃないかっ!)
俺は半ば空元気で高野さんに電話をかけた。
「もしもし、高野さん!?今からブックスまりもで待ってるんで!それじゃっ」
*
「ごめん、ちょっと遅れた。」
「い、いえ…大丈夫です。」
此処が二人の始まりの場所。此処で全てが始まった。
「…話すの、俺の家でもいいですか?」
「………あぁ。」
それから無言のまま、俺達は歩いた。俺は、怖くて高野さんに触れる事ができなかった。
「……どうぞ。」
「お邪魔します。」
いよいよだ。高野さんに話さなければならない。もう、後戻りはできない。
「高野さん……」
「ん…?」
「お、俺は…俺は人間ではありません。」
声が震える。こんなに緊張したのは初めてかもしれない。
「……知ってる。」
「俺は"ラブバンパイア"なんです。…ラブバンパイアとは、自分の愛する者の愛を糧に生きていくバンパイアです。ラブバンパイアは愛する人に触れると満たされます。人間に例えると食事をした時のような感じです。俺はまだ契約者がいないので完全なラブバンパイアではありませんが……」
高野さんに説明しているうちに視界がぼやけてきた。
(あぁ、俺…悲しいんだ。高野さんに嫌われると思うと)
「律……」
そのうちにどんどん涙が溢れてきた。
(最近泣いてばっかだな、俺。いつからだっけ…あ、高野さんに出会ってからだ。)
「ぐす…っ、ひっく……お、れの本当の名前は小野寺律ではありません。"リツ"です。騙していてすいませんでした……」
「……そうか。」
高野さんはそれっきり黙ってしまった。
この沈黙はまるで出会った時みたいだった。
あの頃とは違い、離れたくないと思っている自分がいる。
なぜだろう……
暫くして、今まで黙っていた高野さんが口を開いた。
俺は覚悟を決めて身構える。
高野さんの口から出た言葉は衝撃的なものだった。
"俺と契約しないか。"
差し延べられた手。
−俺は、高野さんが好きなのかもしれない。