ちょうへん
□出会い
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−−あの時、あの人に会わなければ良かった。
そうすれば、あの人の運命を変えてしまう事も無かったのに。
「高野さんっ……いい加減にしてください!警察呼びますよ!?」
俺は今、とある人にストーカーされている。しかも"男"だ。
あっちもこっちも男だというのに何故こんな事になっているのかというと…
この間のことだ。
俺は書店に行き、お気に入りの作家さんの新作の本を街まで買いに行った。普段はあまり外に出ないのだけれども、好きな本の事になると別だ。
「ありがとうございましたぁ〜」
気だるそうな店員の声を耳に、俺はそそくさと店内から出る。
それが駄目だったのかもしれない。店を出たすぐの所で人にぶつかってしまった。
ドンッ
「うわっ!?」
『−−−………』
「……悪い。」
「あっ…い、いえ!こちらこそすいませんでした!」
(…あれ!?……この人の心の声が聞こえない…)
俺は"ラブバンパイア"なので不思議な能力を持っている。
俺はは触れた人の心が読めるのだ。なのに、おかしい。この人の心の声が全く聞こえない。
普通、人間は常に何かしらの事を考えているわけで。全く聞こえないということはありえない。
「俺もよそ見していた。すまなかったな。それじゃあ。」
「…あ……は、い」
俺は驚きの余り少しの間その場から動けなかった。
(あんな人間もいるんだ…)
ふ、と視線を下に向ける。
「あれ…このハンカチ、さっきの人のかな…」
そこには青いハンカチが落ちていた。
キョロキョロと辺りを見回す。
このハンカチがあの人の物じゃなくたっていい、もう一度あの人に触れて確かめたかった。
「!!…いた…っ」
「あの!!すいませんっ!ハンカチ、落としませんでしたか!?」
そう言いながらさりげなくさっきの人に触れる。
『−−−………』
やはり何も聞こえなかった。
「助かった、ありがとう。」
「あ、はい……あのっ!何かあったんですか!?」
「…は?」
(っ!…しまった…完全に変な人だ、俺……)
「い、いえ…すいません……」
「……………」
「……………」
沈黙が続く。
(…お、重い………)
すると、ハンカチを落とした人が口を開いた。
「……名前。」
「へ!?」
「名前は?」
「え、えーと……小野寺律です。」
「律か……俺は高野政宗。」
これが俺と高野さんの出会いだった。
*
その日から3日後、俺がまた書店に行くと、あの人がいた。
軽く会釈をして通り過ぎようとした。…のだが、なぜかその人に腕を捕まれてしまった。
「ちょ…っ!なんなんですか!?」
「…お前は絶対俺を好きになれると思う。」
…と、まぁ……こんな感じで冒頭の会話へと続くわけだ。
今、二人の物語が始まる。