めいん

□幸せの定理
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貴方は幸せでしたか。







それを死ぬ前に聞かれたならば俺はなんて答えるだろう。



裕福な家庭に俺は生まれた。
出版社の社長の息子だったので必然的に本を好きになった。

俺は昔から手のかからない子供だったそうで本さえ与えられればおとなしかったそうだ。


それなら自分は何時から本が好きだったのだろうか。
俺の一番古い記憶は絵本を読んでいる所から始まる。

気がつけば本が好きだった。


本をめくればその世界に入る事ができ、こんな自分でも主役になることが出来る。

俺は無我夢中に本を読んだ。


読んで読んで、読んで







分かった。




自分には主役になる事は出来ない。主人公の様に俺を心の底から愛してくれる人などいないと。



俺は"愛"というものに飢えていた。
父さんと母さんは優しかった。

毎日の様に将来を語られ、大切にしてくれたが"俺"を見てはくれなかった。

両親は俺を息子ではなく、跡取り息子としてしか見てはいなかったのだ。


それでも俺は期待に応えようと一生懸命に努力した。



このままじゃ壊れちゃう。

もう一人の俺が叫んでいた。


胸が痛い。

涙が零れそう。

なんで、

ねぇ、なんで




なんで俺は生まれてきたの。







「…つ………律!!」

ぼんやりと声が聞こえる。
誰かが俺を呼んでる。


「た、かのさん…」


目を開ければ真っ白な天井。側には今にも泣きだしてしまいそうな顔。

格好いい顔が台なしですよ。
そう言ってやりたいのに声にならない。


「…お前また倒れたんだ……」



高野さん…
泣かないで下さい。

手を伸ばしてそっと高野さんの頬に触れる。
一瞬ピクリと肩が跳ねた。


「迷惑…か、けてすいません……」

「迷惑なんかじゃない。……頼む、律。俺を置いて行かないでくれ…」


高野さんは俺の手をぎゅっと握りしめた。

温かい。




高野さん。高野さんのお願い聞いてあげたいけれど俺、もう駄目みたいです。

俺、高野さんと出会えて本当に良かった。
俺に本当の愛を教えてくれてありがとう。

俺はちゃんと高野さんに返せてましたか?



ねぇ、高野さん。



「      」


「っ…律!!」


俺は貴方を愛しています。
今も、これからもずっとずっと。

俺は先に行ってしまうけれど泣かないで。また会えるから。

俺は先に天国はどんな所か見てきますね。
だから高野さん、貴方は土産話を沢山してください。両手に抱えきれないくらいに。なるべくゆっくりゆっくり来て下さい。

俺はいつまでも待っているから。


ねぇ、高野さん。
幸せってなんだと思いますか。

哲学みたいに難しい答えじゃなくてもっと簡単な答え。

俺は愛する人が隣に居る事だと思うんです。

貴方は俺が貴方を救ったと言っていたけれど、本当は俺が救われていた。
貴方が居たから俺は……


幸せでした。



『律!!』

『っ!高野さん!』

また会えることを信じて。


高野さん、俺は幸せでした。


 

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