Fate/Zero・stay night

□ひとときのワルツ ディルムッド
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「ねぇ、ディルムッド…変じゃないかな…?」


「いえ、よくお似合いですよ。お嬢様。」


何度も鏡の前で何度もクルクルと、御自身の御身を確認する様が何とも愛らしい我が主。


「お父様が特注で作ってくれたんだけど…やっぱり私には……。」


彼女は着慣れないパーティードレスに未だ戸惑っていた。


「そんな事はありません。
名前様は大変お美しくていらっしゃる。」


名前様は恥ずかしげに肩を竦めたが、それは事実であった。

彼女が幼い頃から執事として、彼女の御身を護り世話をしてきた自分は、誰よりも名前様と共にいたと断言できる。


昔はお転婆で(今もだが)よく俺の腕を引いて走り回っていた頃のあのあどけなさは抜けてしまった。

その代わり、きちんと髪を結い上げてドレスに身を包んだその姿は、気品に満ち溢れ、彼女が大人の女性へと変化したことがよくわかる。


執事としては大変嬉しく、誇るべきことなのだろうが、自分の中には何とも言えない寂しさが蔓延していた。


「私、社交会なんて初めてだから不安なの…あぁ…ダンスで失敗したらどうしよう…。」


名前様も16歳となり、社交会に出るには遅い方ではあったが、彼女ぐらいの年になれば社交会に引っ張り凧となる。

しかも、その容貌の美しさが知れ渡れば更に増えることだろう。


そこまで考えて、名前様に気づかれぬ様に溜息をついた。


自分だけが彼女の美しさを知っていればいい…。

そんな独占欲を持てる様な立場ではないが、長年想い慕ってきた彼女が、自分以外の異性の目に止まることに、我慢できずにいる自分がいる。


「正直…社交会で踊るより、ディルムッドにダンスを教えてもらってる時が1番楽しいんだけどなぁ…。」


「!………名前様…」


彼女にとっては何の気なしに発せられた言葉なのだろうが、先ほどまで自分の心を占めていた嫉妬の念は、そのたった一言で雲散霧消してしまった。


「…では、一曲お相手をお願いできますか?」


恭しく礼をしながら名前様に手を差し出す。

すると、名前様はいつもの明るい笑みを浮かべて俺の手を取るのだった。


ひとときの円舞(ワルツ)
 

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