氷菓

□ぶっきらぼうな彼のセリフ5題 奉太郎
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『奉太郎、何読んでるの?』


「テキトーにその辺にあった本だ。」


『………そっか。』


折木奉太郎と、その友人の苗字名前は古典部の部室である、地学講義室にいた。

今日は他の部員は来ておらず、奉太郎と名前の二人だけだった。


『今日はみんな来ないのかな…』


「……さぁな。」


『……………。』


「……………。」


直ぐに訪れた沈黙によって、余計に名前は手持ち無沙汰になってしまった。

名前が窓の外に視線を移すと、しとしとと雨が降り出していた。


『……あ…。』


名前は傘を持ってきていないことに気づいた。


蚊の鳴くように小さな声だったが、地学講義室の静けさと相まって、奉太郎の耳には届いていた。


「…どうした?」


一瞬、奉太郎はチラリと名前を見たが、また直ぐに本を読み始めた。


『……傘忘れてきたみたい。』


「……そうか。」


『………………あれ、その後は?』


「……後って何だ?」


そこで漸く、奉太郎は本を閉じて名前を見た。


『いや…ほら…もうちょっと何か…。』


「?ハッキリ言わないとわかるものもわからないぞ。」


名前の意図がわかっていない奉太郎は、首を傾げた。


名前はそんな奉太郎の様子にハァ…とわざと大きな溜め息をして見せた。


『まず1つ…』


名前は奉太郎の前に人差し指を1本立てた。


『今、外は雨が降っています。』


名前がそう言うと、先刻の彼女のように奉太郎は窓の外を見た。


『2つ目…
私は傘を忘れてしまいました。』


奉太郎から特に反応がないので、名前は3本目の指を立てた。


『そして3つ目……
さっきの反応を見る限り、奉太郎は傘を持ってきている。』


「…まぁな。

それで…結局は何が言いたいんだ。」


『閃きの折木君ともあろうお方が、ここまで言ってわからないの?』


「そんな二つ名を持った覚えはないが…。」


『私、このままだと濡れて帰らなきゃいけないよ。
優しい折木君の傘に入れてもらえたらなぁ…なーんて…』


名前がそこまで言うと、奉太郎はハァ…と大きなため息をついた。




俺に何を言わせたいんだ



(そりゃ、勿論。
さりげなく一緒に帰るかって言葉を(おい、置いてくぞ。)

(あっ、待ってよ!)
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